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- 愛撫猫の耳を「切符切り」でパチンとやってみたい。私は子供のときからそんな空想を捨てられずにいる。
- 青べか物語「蒸気河岸の先生」と呼ばれる私は、根戸川のいちばん下流にある漁師町の浦粕で独りぐらしを始める。
- 赤い部屋異常な刺戟を求める七人の男が、緋色の垂絹で囲んだ「赤い部屋」に集まり、新入会員T氏の話を待つ。
- 赤い蝋燭と人魚北の海に棲む身重の人魚は、我が子を人間の町で幸せに育ててほしいと願い、陸で産み落とそうと決める。
- 赤ひげ診療譚駈込み訴え小石川養生所の見習医保本登は、赤髯こと新出去定の助手として死にゆく老人と重傷の女人夫に立ち会う。
- 赤ひげ診療譚氷の下の芽年の暮れの養生所に、母親に伴われた十九歳の娘おえいが来る。身ごもった子をおろしてもらうためだ。
- 赤ひげ診療譚狂女の話長崎で蘭方を学んで江戸へ戻った保本登は、小石川養生所の医長の新出去定から、いきなり見習を命じられる。
- 赤ひげ診療譚むじな長屋養生所の見習医の保本登は、嫌っていた医員の上衣を自分から着はじめる。きっかけは病人の一言だった。
- 赤ひげ診療譚おくめ殺し養生所の医者の新出去定と保本登は、帰り道に溝で倒れている血まみれの若者、角三を見つける。
- 赤ひげ診療譚三度目の正直養生所の医師の保本登は、新出去定に命じられて、気が狂ったといわれる大工の猪之を調べにいく。
- 赤ひげ診療譚徒労に賭ける養生所の見習医の保本登は、新出去定の外診の供をして、残暑のきびしい江戸の町を歩く。
- 赤ひげ診療譚鶯ばか保本登は去定の供で伊豆さま裏の長屋を訪ね、目笊に千両の鶯がいると言い張る十兵衛を診る。
- 秋女子大学で才媛と呼ばれた信子は、作家になると誰もが思っていた。従兄の俊吉との結婚も噂されていた。
- アグニの神上海の薄暗い家に住む印度人の婆さんは、アグニの神の御告げで占うと言い、亜米利加人から小切手を受け取る。
- 蘆刈十五夜の夕方、わたしは後鳥羽院の離宮の跡をたずねて山崎へ行き、淀川の洲で月を眺める。
- 頭ならびに腹真昼に全速力で走る満員の特別急行列車で、一人の子僧が鉢巻をして周りに構わず唄い出す。
- 阿部一族寛永十八年の春、肥後の大名細川忠利が病で亡くなる。許しを得た家臣十八人が、次々に殉死していく。
- 或阿呆の一生本屋の梯子の上で世紀末の本を探す二十歳の「彼」から始まり、五十一の短い断章で一人の文学者の生涯をたどる。
- 或る少女の死まで駒込に下宿する若い詩人の私は、根津の酒場で起きた喧嘩に加わり、翌朝に刑事が来て警察署へ連れて行かれる。
- 一塊の土足かけ八年寝ていた倅の仁太郎が死に、お住は嫁のお民に壻を取って家に残ってもらおうと考える。
- 一兵卒満洲の野で、脚気を患う一兵卒が軍医に止められながら病院を出て、隊を追って一人で歩き出す。
- 田舎教師中学を出た林清三は、家が貧しく進学をあきらめ、弥勒の村の小学校に教員として赴任する。
- 芋粥摂政藤原基経に仕える五位は、風采が上がらないせいで、同僚からも下役からも軽んじられている。
- 入れ札役人を斬って関所を破った国定忠次と子分たちは、信州へ向かう山中で夜明けに足を止める。
- 陰翳礼讃自分で家を建てた筆者は、電燈や煖房や便器を日本座敷になじませようと、あれこれ苦心する。
- 陰獣探偵小説家の「私」は上野の博物館で小山田静子と出会い、作家と愛読者として手紙を交わす仲になる。
- ヴィヨンの妻詩人の大谷の妻である「私」は、酒を飲み歩いて帰らない夫を待ち、病弱な坊やと小金井の荒れた家で暮らしている。
- 浮雲役所を免職になった内海文三は、身を寄せる叔父の家の娘お勢と一緒になる日を当てにしていた。
- 浮雲敗戦後の冬、幸田ゆき子は仏印から敦賀へ引き揚げる。ダラットで愛しあった富岡に会うため、東京へ向かう。
- 牛女ある村に、体が大きく口のきけない女がいた。やさしい女で、一人の男の子を大事に育て、村の人から「牛女」と呼ばれた。
- 牛をつないだ椿の木牛曳きの利助さんは山道の椿の若木に牛をつなぎ、葉を食べさせてしまう。土地の地主にひどく叱られる。
- 歌行灯霜月の月夜、膝栗毛をなぞって旅をする二人の老人が桑名に着き、川口の旅籠屋の湊屋へ向かう。
- 右大臣実朝実朝の死から二十年後、近習だった語り手が山奥で、仕えた将軍家の日々を問われるままに語り出す。
- 美しい村病院生活のあと仕事を取り戻そうと、私は季節前の六月に、少年時の思い出が詰まった高原の村へ一人で来る。
- 生まれいずる悩み北海道の農場で筆が進まない私は、十年前に絵を見せに来た少年のことを思い出す。
- 永日小品正月の客や泥棒騒ぎ、猫の死など、身の回りの小さな出来事を綴った二十五の小品が並ぶ。
- 狼森と笊森、盗森小岩井農場の北に並ぶ四つの森の名の由来を、黒坂森の巨きな巌が「わたくし」に語って聞かせる。
- 黄金風景子供のころの私は、のろくさい女中のお慶をいびり続け、肩を蹴って泣かせたこともあった。
- 桜桃小説家の「私」は、幼い三人の子がいる家で、いつも冗談を言って明るくふるまっている。
- 大塩平八郎天保八年二月、飢饉の続く大阪で二人の少年が西町奉行所の門を敲き、陰謀を告げる訴状を差し出す。
- 興津弥五右衛門の遺書細川家に仕える興津弥五右衛門は、主君の墓前で切腹する前日、子孫のために京都の弟の家で遺書を書く。
- おじいさんのランプかくれんぼで東一君が倉から古いランプを持ち出す。おじいさんは叱ったあと、昔の話を聞かせ始める。
- 押絵と旅する男魚津へ蜃気楼を見に行った帰り、私は夜の汽車で、平たい荷物を抱えた老人と二人きりになる。
- 押絵の奇蹟病床のピアノ教師トシ子が、名女形の菱田新太郎へ長い手紙を書く。二人は同じ病で血を吐いていた。
- オツベルと象稲扱器械を六台も据えつけて百姓を働かせるオツベルの小屋に、ある日ふらりと白象がやって来る。
- お伽草紙空襲の夜、防空壕で子に絵本を読む父が、昔話とは別の物語を胸の中で組み立てはじめる。
- 思い出す事など胃の病で入院していた余は、転地先の修善寺で病を再発させ、寝たまま東京の病院へ戻ってくる。
- 恩讐の彼方に旗本の中川三郎兵衛に仕える市九郎は、主人の妾との仲をとがめられて斬り合いになり、主人を殺してしまう。
- 女の決闘太宰治が森鴎外訳の短篇『女の決闘』を読者と一緒に読み、原作の合間に自分の筆を差し込んでいく。
- 貝の火子兎のホモイは、流れで溺れかけたひばりの子を助ける。そのあと重い熱病にかかって寝込んでしまう。
- カインの末裔北海道の晩秋、広岡仁右衛門は痩せた馬を引き、妻と赤坊を連れて松川農場の小作人になる。
- 鏡地獄曇った春の終りの日、怪しい話を語り合う席で、友だちのKが一人の不幸な友人の話をはじめる。
- 駈込み訴え「申し上げます」と旦那さまのもとへ駈け込んだ男が、師である「あの人」を殺してほしいと訴え出る。
- かしわばやしの夜日暮れに稗の畑で土をかけていた清作は、柏の林から変な声を聞き、そっとそちらへ走っていく。
- 火星の運河「私」は音も匂いもない果てしない大森林の下闇を、行き先も分からないまま歩き続けている。
- 風立ちぬ夏の高原で絵を描く節子のそばで、私は不意に立った風の中で一つの詩句を口ずさむ。
- 風と光と二十の私と父が死んで借金だけが残り、二十の私は下北沢にある小学校の分校で代用教員になる。
- 風の又三郎九月一日の朝、谷川の岸にある小さな学校の教室に、見たこともない赤い髪の子がひとりですわっていた。
- 風博士語り手の「僕」は、遺書だけを残して姿を消した恩師の風博士について、その死を信じよと読者に訴える。
- 河童精神病院の患者である第二十三号が、だれにでも語る話だ。三年前の夏、穂高山へ登る途中で河童に出会う。
- ガドルフの百合旅のガドルフは、十六哩先の次の町を目指して、楊の並木道を朝から歩き続けている。
- 蟹工船函館を出た蟹工船博光丸に、貧しい村や町から集められた漁夫と十四、五の雑夫が乗り込む。
- 硝子戸の中風邪で書斎にこもる作家が、硝子戸の中で見聞きした小さな出来事を新聞に書きつづっていく。
- 烏の北斗七星雲の垂れこめた雪の田んぼで、烏の義勇艦隊が年老いた大監督の号令を受けて夕方の演習に飛び立つ。
- 家霊坂道の途中にある老舗のどじょう店「いのち」。家業を嫌って家を出たくめ子は、母の病で呼び戻されて帳場に坐る。
- 枯野抄元禄七年十月、大阪の花屋の裏座敷で、俳諧の大宗匠である芭蕉が門弟たちに囲まれて息を引きとろうとしている。
- 雁明治十三年、医科の学生の岡田は散歩の途中、無縁坂の家の窓にいる女と会釈を交わすようになる。
- 寒山拾得唐の官吏の閭丘胤は、台州へ旅立つ前に頭痛に悩み、門に来た乞食坊主に水を吹きかけられて治る。
- 環礁ミクロネシヤ巡島記抄南洋の役所に勤める「私」が、ミクロネシアの島々を船で巡り、見聞きしたことを章ごとに書きとめていく。
- 黄いろのトマト町の博物館にある剥製の蜂雀が、朝早く来た「私」に、ペムペルとネリの兄妹の話を語りはじめる。
- 機械九州の造船所を出た語り手の私は、汽車で会った婦人の縁で、ネームプレート製造所に住み込みで働き始める。
- 器楽的幻覚仏蘭西から来た若い洋琴家の連続音楽会に、私は六回通う。静かなホテルの会場に、教室のような親しさを覚えていく。
- 季節のない街目に見えない市電を毎日運転する六ちゃんが、どぶ川を越えて貧しい長屋の街へ猫を送り届ける。
- 狐月夜に七人の子供が本郷の祭へ歩いてゆく。文六ちゃんは母親の大きな下駄をはいていて、みんなに遅れてしまう。
- 狐憑湖の上に家を建てて暮らす部落で、平凡な男シャクに鷹や狼の霊がのり移ったと評判になる。
- 木の都大阪の上町で育った私は、京都の高等学校に進み両親を失ってから、故郷の町とほとんど縁が切れていた。
- 牛人魯の叔孫豹は亡命の途中で一夜の契りを結び、のちに黒い牛のような男に救われる夢を見る。
- 久助君の話久助君は五年に上がるときにほうびをもらった。父は張り切り、帰ったらすぐ一時間勉強する決まりを作る。
- 牛肉と馬鈴薯明治のある冬の夜、芝の倶楽部に集まった紳士たちが、酒を飲みながら互いの人生観を語り合っている。
- 魚玄機唐の都長安で、詩と美貌で名高い女道士の魚玄機が、人を殺して獄に下ったと噂が広まる。
- 魚服記本州の北端にある馬禿山の滝のそばで、スワは父親と炭焼小屋に暮らしながら茶店の番をしている。
- きりぎりす二十四歳の妻が、五年連れ添った画家の夫へ別れを告げる。全編がその妻の語りかけでできている。
- 銀河鉄道の夜病気の母と暮らすジョバンニは、学校の後に活版所で働き、級友たちにからかわれている。
- 銀の匙書斎の小箱にしまった銀の匙をきっかけに、私は伯母さんに背負われて育った幼いころを語り出す。
- 金の輪長い病気からようやく床を離れた太郎は、三月の末に外へ出る。だが往来には遊ぶ友だちがだれもいない。
- 草枕語り手の画工は、人の世の煩いを離れて物を画として見る非人情の旅を思い立ち、春の山路を那古井の温泉場へ向かう。
- グスコーブドリの伝記イーハトーヴの森に生まれたブドリは、冷害の飢饉で両親を失い、妹のネリも見知らぬ男に連れ去られる。
- グッド・バイ終戦から三年、闇商売で稼ぐ編集長の田島は、十人ちかい愛人と別れて妻子を呼び寄せようと考える。
- 虞美人草哲学好きの甲野さんと快活な宗近君が春の京都を旅する。東京では甲野さんの異母妹の藤尾が、詩人肌の小野を思うままに操っている。
- 蜘蛛の糸御釈迦様は極楽の蓮池のふちから、池の下に透けて見える地獄の底をのぞき、大泥坊の犍陀多に目を止める。
- 雲は天才である岩手の村の小学校で代用教員を務める二十一歳の新田耕助は、生徒との課外授業に何より熱を入れている。
- クララの出家千二百十二年の棕櫚の安息日の朝、アッシジの貴族の娘クララは、男たちが現れる不思議な夢から目をさます。
- 競馬元中学教師の寺田は、淀の競馬場で朝から1番の馬ばかり買い続けている。亡くなった妻の名が一代だったからだ。
- Kの昇天或はKの溺死療養地のN海岸で知り合ったK君が溺死した。私は、その死に思い悩む相手へ長い手紙を書く。
- 外科室画家の「予」は、兄弟同然の医学士高峰に無理を言い、貴船伯爵夫人の手術に立ち会う。
- 戯作三昧天保二年の秋、六十を越えた曲亭馬琴は朝湯で愛読者に八犬伝を褒められ、湯船では自作の悪口を聞かされる。
- 幻化精神科病院を抜け出した久住五郎は、鹿児島へ向かう飛行機で丹尾という男と隣り合わせる。
- 玄鶴山房ゴム印の特許で資産を作った堀越玄鶴は肺結核を患い、娘夫婦と寝たきりの妻のいる家の離れで床に就いている。
- 虔十公園林縄の帯をしめていつも笑っている虔十は、子供らにばかにされて、笑わないふりをするようになる。
- 行人二郎は友人の三沢と大阪で会う約束をするが、三沢は胃を病んで入院し、同じ病院の芸者を気にかける。
- 交尾病気で夜中に眼が冴える私は、寝静まった町の物干し場に出て、露路を行き交う猫を眺めている。
- 坑夫二人の少女との関係に行き詰まって家を出た十九歳の青年が、松原の茶店で長蔵という男に呼び止められる。
- 高野聖雪の夜、敦賀の古い宿で、若い「私」は道連れの旅僧に、若いころの飛騨の山越えの話を聞く。
- こころ鎌倉の海で知り合った先生に惹かれ、学生の私は東京の家へ通う。先生は毎月、友の墓に一人で参っている。
- 五重塔谷中感応寺に五重塔が建つと聞き、腕はあるが世渡りの下手な大工の十兵衛が、自分に建てさせてほしいと願い出る。
- 悟浄出世流沙河の河底に住む妖怪の悟浄は、自分とは何か、魂とは何かを考えずにいられない病にかかっている。
- 悟浄歎異沙門悟浄の手記天竺への旅の途中、悟空が八戒に変身の術を教える。俺はそれを見て、思わず吹き出してしまう。
- 琥珀のパイプ大震災から間もない渋谷の高台で、役所勤めの私は暴風雨の夜に近所の男たちと夜警の番に立つ。
- 湖畔旧大名家の奥平が、二歳にならない息子に宛てて、妻を手にかけた事情と失踪の理由を書き残す。
- ごん狐村の近くの山に、ごんという、ひとりぼっちの小狐が住んでいた。いたずらばかりして、村の人を困らせている。
- 金色夜叉明治の東京で、孤児の間貫一は恩人の鴫沢家に養われ、一人娘の宮と夫婦になる約束をしていた。
- 最後の一句元文三年の大阪で、船乗り業の桂屋太郎兵衛を斬罪に処すると書いた高札が立てられる。
- 堺事件明治元年、堺の取り締まりを任された土佐藩の兵が、上陸したフランス水兵を撃ち、十三人を死なせる。
- 桜島終戦間近の夏、暗号員の村上兵曹は坊津から桜島への転勤を命じられ、途中の町で右の耳が無い妓と一夜を過ごす。
- 桜の樹の下には語り手の俺は、満開の桜の美しさがどうしても信じられず、この二三日は不安で憂鬱だった。
- 桜の森の満開の下鈴鹿峠に、旅人の着物をはぎ、気に入った女は女房にしてしまう山賊が住んでいた。
- さぶ栄二とさぶは小舟町の表具屋芳古堂で育った職人仲間で、ぐずと言われるさぶは栄二を頼りにしている。
- 猿ヶ島長い旅に疲れた語り手は、海を越えて霧深い島に着き、岩山の枯れ木に登って枝を折ってしまう。
- 山月記唐の時代。若くして科挙に合格した秀才の李徴は、役人を辞め、詩人として名を残そうとする。
- 山椒大夫筑紫へ行ったきりの父を尋ねて、母と安寿・厨子王の姉弟、女中の姥竹が越後の道を旅している。
- 三四郎熊本の高等学校を卒業した小川三四郎は、大学に入るため汽車で上京する。車中で同じ宿に泊まる女や髭の男と出会う。
- じいさんばあさん文化六年の春、麻布竜土町の隠居所に白髪の老人と老女が移り住み、仲むつまじく暮らし始める。
- 地獄変堀川の大殿様に長く仕えた者が、本朝第一の絵師良秀と、地獄変の屏風の由来を語り始める。
- 死後の恋浦塩の町で評判の風来坊の男が日本の軍人をレストランに誘い、自分の話を聞いてほしいと頼む。
- 鹿踊りのはじまり苔の野原で眠った語り手は、風のことばから鹿踊りのほんとうの精神を聞く。そこから昔の野原の話が始まる。
- 刺青江戸の昔、清吉は名の知れた刺青師で、客が針の痛みに呻くほど愉快を感じる男だった。
- 渋江抽斎語り手のわたくしは古い武鑑を集めるうち、弘前の医官渋江氏の蔵書印がある本に何度も出会う。
- 斜陽敗戦の年の冬、かず子は母と二人で東京の家を手放し、伊豆の山荘に移ってひっそりと暮らしはじめる。
- 十三夜旧暦の十三夜の晩、原田の奥様となった阿関が、車も供もなく一人で実家の格子戸の前に立つ。
- 侏儒の言葉道徳や恋愛、芸術や政治を題に短い断章を次々と並べた、芥川龍之介の箴言集である。
- 修禅寺物語伊豆の修禅寺村に住む面作師の夜叉王は、将軍頼家に似せた面を半年たっても納めずにいる。
- 春琴抄大阪道修町の薬種商の娘、春琴は九歳で失明する。琴と三味線に打ち込み、丁稚の佐助が手を曳いて稽古に通う。
- 将軍日露戦争の旅順で、白襷隊の兵たちが死地へ向かう。軍司令官のN将軍は兵の手を握り、大元気にやれと励ます。
- 少年十歳ほどの「私」は、同級で意気地なしと評判の塙信一から、屋敷のお稲荷様の祭りに誘われる。
- 女生徒五月の最初の朝、眼鏡をかけた女学生の「私」が目をさまし、亡き父を思いながら犬と遊んで家を出る。
- 白ある春の昼過ぎ、白い犬の白は、大の仲よしである隣の黒が犬殺しに狙われているのを見る。
- 城のある町にて幼い妹を亡くした峻は、その死を落ちついて考えたくて、城跡のある町の姉の家へやって来る。
- 蜃気楼秋の昼ごろ、僕は東京から来た大学生のK君と鵠沼の海岸へ蜃気楼を見に出かけ、途中でO君も誘う。
- 新ハムレット先王が急死して二箇月、叔父クローヂヤスが王位を継いで王妃と結婚する。王子ハムレットは喪服のまま式に出る。
- 親友交歓昭和二十一年の九月、津軽の生家に避難していた私のもとへ、小学校の同級生だという平田が訪ねてくる。
- 心理試験苦学生の蕗屋清一郎は、同級生の下宿先の老婆が植木鉢の底に大金を隠していると知り、奪う計画を半年かけて練る。
- 水仙月の四日雪婆んごが遠くへ出かけた晴れた日、赤い毛布の子供がカリメラのことを考えながら家へ急いでいる。
- 鮨坂と崖の多い町の鮨屋「福ずし」で、娘のともよは常連の男たちを見なれて育った看板娘である。
- すみだ川俳諧師の蘿月は今戸に住む妹のお豊を訪ね、甥の長吉と幼馴染のお糸の仲を案じる話を聞く。
- 聖家族九鬼の告別式の日、気分を悪くした細木夫人を一人の青年が助ける。九鬼にかわいがられていた河野扁理だった。
- 正義と微笑十六歳の芹川進は兄にマタイ伝を読んでもらい、微笑して正義を行うと心に決めて日記をつけ始める。
- 性に眼覚める頃十七歳の私は学校をやめ、茶を好む老いた父と犀川のほとりの寺で暮らしながら詩を書いている。
- 青年Y県から上京した小泉純一は、小説家を志して大石路花を訪ね、谷中の初音町に小さな家を借りる。
- 清貧の書語り手の私は、東京に出て四年の間に三人の男の妻となった。三人目の夫は絵を描く与一だ。
- 惜別東北の村で開業する老医師が、仙台医専の同級生だった周樹人と恩師藤野先生の思い出を手記に書く。
- 世相敗戦の年の師走、小説家の私は昔の千日前の事件を書きかけたまま、筆が少しも進まずにいる。
- セメント樽の中の手紙木曾川の発電所工事で、松戸与三はミキサーに追われながら一日じゅうセメントの樽を空けている。
- セロ弾きのゴーシュ町の活動写真館でセロを弾くゴーシュは、楽団でいちばん下手で、いつも楽長に叱られている。
- 一九二八年三月十五日小樽で労働運動に加わる夫の龍吉を、妻のお惠は誇りと不安の入りまじった気持ちで見守っている。
- 双生児ある死刑囚が教誨師にうちあけた話死刑を待つ男が先生に、裁判でも隠し通したもう一つの罪を打ち明ける。殺した相手は双子の兄だった。
- それから三十になっても職に就かない長井代助は、父の金で読書と音楽に暮らしている。そこへ旧友の平岡が東京へ戻ってくる。
- 高瀬舟江戸時代の京都では、遠島を言い渡された罪人を、高瀬川を下る小舟で大阪へ送った。舟には町奉行所の同心が付き添った。
- たけくらべ吉原の廓に近い大音寺前の町で、子どもたちは横町組と表町組に分かれて張り合っている。
- 竹の木戸東京郊外に住む会社員の大庭真蔵の家は、井戸のない隣の植木屋夫婦に水を汲ませてやっている。
- ダス・ゲマイネ恋に破れた二十五歳の大学生の「私」は、上野の甘酒屋で、音楽学校に八年いるという奇妙な男の馬場と知り合う。
- 忠直卿行状記大坂の陣で一番乗りの手柄を立てた忠直卿は、家康に褒められ、天下第一の誇りを抱いて越前へ帰る。
- 蓼喰う虫要と美佐子の夫婦は互いに愛し合えず、夫も認めたうえで妻は阿曽と会い続けている。
- 堕落論敗戦から半年がたった。特攻の若者は闇屋になり、未亡人は新たな面影を胸に宿す。私は人間が変ったのではないと見る。
- 小さき者へ妻を亡くした父が、まだ幼い三人の子どもに向けて、大人になったら読んでほしいと書き残した手紙だ。
- ちいさこべ神田の大工の店「大留」の若棟梁茂次は、川越の普請先で、江戸の大火で両親が死んだと知らされる。
- 畜犬談伊馬鵜平君に与える「私」は犬を猛獣と恐れ、いつか必ず噛まれると信じている。友人が噛まれた話を聞き、憎しみは頂点に達した。
- 千曲川のスケッチ島崎藤村が信州小諸で教師をした七年の暮らしを、年下の友人に語りかける形で綴った写生文集だ。
- 痴人の愛電気会社の技師の河合譲治は、浅草のカフエエで働く十五歳のナオミを引き取り、理想の妻に育てようとする。
- 父帰る明治四十年頃の南海道の小さな町。父が家を出て二十年、母と三人の子はつつましく暮らしている。
- 千鳥体をこわして学校を一年休んだ青木は、夏に世話になった西の小島の家を、小春の日にふたたび訪ねる。
- 注文の多い料理店狩りに来た二人の若い紳士が、山奥で案内の猟師とはぐれる。連れてきた二匹の犬も泡を吐いて倒れてしまう。
- 千代女十二の時に綴方が雑誌で一等に選ばれた和子が、来年十九になる今、自分は駄目な女だと語り始める。
- ツェねずみ古い家の天井裏にすむツェねずみは、いたちに教えられて金米糖を拾いに行くが、蟻の兵隊に追い返される。
- 津軽作家の私は津軽のことを書くために、ある年の五月に作業服姿で東京を発ち、故郷の津軽半島を一周する。
- 月夜と眼鏡町も野も緑の葉に包まれる月のいい晩、町はずれに一人で住むおばあさんが窓の下で針仕事をしている。
- 月夜のでんしんばしらある晩、恭一は鉄道線路の横を歩いて停車場の近くまで来る。空には九日の月とうろこ雲がかかっている。
- 土神ときつね一本木の野原の北に立つ樺の木には、谷地に住む乱暴な土神と、上品な狐の二人の友達がいた。
- D坂の殺人事件九月初旬の蒸し暑い晩、私はカフェ白梅軒の窓から、向かいの古本屋の様子が妙なことに気づく。
- 弟子魯の游侠の徒である子路は、評判の学者孔子を辱めようと、雄雞と牡豚を手に乗り込む。
- 手袋を買いに雪を初めて見た子狐が、冷たくなった両手を母さん狐に差し出す。母さん狐は町で毛糸の手袋を買ってやろうと考える。
- 天災と国防昭和九年、函館の大火と北陸の水害に続いて、九月二十一日に近畿地方を大風水害が襲った。筆者はここから書き起こす。
- 東京八景(苦難の或人に贈る)昭和十五年の夏、三十二歳の私は伊豆の山村の安宿にこもる。十年間の東京生活を書こうと地図を広げる。
- 藤十郎の恋元禄の京で、名人坂田藤十郎は近松門左衛門の新作で初めて人妻との密通を演じることになる。
- 党生活者軍需品を作る倉田工業に臨時工として入り込んだ私は、警察に追われながら非合法の党活動を続けている。
- 遠野物語柳田國男が遠野の人佐々木鏡石から聞いた話を、一字一句加減せずに書き留めた百十九の話である。
- トカトントン青森の海辺の郵便局に勤める二十六歳の青年が、中学の先輩にあたる作家へ長い手紙を書く。
- 杜子春唐の都洛陽で財産を使い果たした若者杜子春が、寝る所もなく西の門の下で途方に暮れている。
- 隣の嫁中学を出て百姓を始めたばかりの省作は、稲刈りの疲れで起きられず、母や姉にせかされて朝を迎える。
- とむらい機関車汽車で乗り合わせた大学生に、H駅の機関庫に勤めていた男が「葬式機関車」の話を語りはじめる。
- トロッコ小田原と熱海の間で軽便鉄道の工事が始まり、八つの良平は土を運ぶトロッコを毎日見に行く。
- どんぐりと山猫ある土曜日の夕方、一郎のうちに山ねこからはがきが届く。めんどうな裁判をするので来てほしいと書いてある。
- 菜穂子母の三村夫人は、作家の森於菟彦と出会ってからの日々を、娘の菜穂子に宛てた日記に綴る。
- なめとこ山の熊なめとこ山の熊捕りの名人の淵沢小十郎は、犬を連れて山を歩き、熊を撃って暮らしている。
- 南京の基督南京の貧しい部屋で、十五歳の宋金花は父を養うために客をとっている。壁には小さな十字架が懸かる。
- にごりえ新開の町の店「菊の井」で一番の売れっ子のお力は、我ままに振る舞いながら客を呼び込む。
- 二銭銅貨下駄屋の二階で貧しく暮らす松村武と「私」は、五万円の隠し場所を明かさないまま捕まった紳士泥坊の話をしていた。
- 日日平安江戸へ帰る途中の井坂十郎太は、空腹から切腹のまねをする浪人の菅田平野に呼び止められる。
- 二百十日豆腐屋の伜の圭さんと友人の碌さんが、阿蘇のふもとの温泉宿に泊まり、のんきな会話を重ねる。
- 日本婦道記不断草米沢藩士の登野村三郎兵衛に嫁いだ菊枝は、半年ほどで良人の態度が急に冷たくなり、わけも分からず離縁される。
- 日本婦道記糸車松代藩の軽いさむらいの家の娘お高は、病む父と幼い弟を支え、糸繰りの内職で家計を助けている。
- 日本婦道記松の花紀州徳川家の年寄役、佐野藤右衛門は烈女節婦の伝記『松の花』を校閲している。その朝、病床の妻やすが息をひきとる。
- 日本婦道記尾花川琵琶湖畔の尾花川に住む太宰の屋敷には志士たちが集い、妻の幸子が心をこめてもてなしてきた。
- 日本婦道記墨丸正保三年の霜月、五歳のお石が鈴木家にひきとられる。陰口を哀れに思った平之丞は、墨丸という呼び名を選んだ。
- 日本婦道記梅咲きぬ加賀藩の重職を務める多賀家の嫁加代は、和歌の才を認められ、もうすぐ奥義の允可がさがるところまで来ていた。
- 日本婦道記藪の蔭八百石の大寄合の家に育った由紀は、二百石の安倍休之助に嫁ぐ。祝言の夜、休之助の帰りが遅れていた。
- 日本婦道記箭竹万治二年の秋、将軍家綱は射ごこちのよい矢に、きまって「大願」の二字が彫られていることに気づく。
- 日本文化私観日本の古い文化をほとんど知らない僕が、タウトの日本礼讃に異を唱え、自分なりの日本文化論を語りはじめる。
- 人間椅子人気作家の佳子のもとへ、見知らぬ男から分厚い原稿のような手紙が届く。
- 人間失格人間の生活というものが見当つかない葉蔵は、幼い頃から道化を演じて周りを笑わせ、本心を隠して生きてきた。
- 猫の事務所……ある小さな官衙に関する幻想……軽便鉄道の停車場の近くにある猫の第六事務所では、四人の書記が猫の歴史と地理を調べている。
- 鼠小僧次郎吉初秋の日暮れ、汐留の船宿の二階で遊び人の二人が酒を酌み交わし、鼠小僧の噂を始める。
- 野菊の墓矢切村の旧家で暮らす十五歳の政夫と、母の看病に来た従妹の民子は、何より仲の好い二人だった。
- 野ばら大きな国と小さな国の国境で、老いた兵士と若い兵士が一人ずつ石碑の番をしている。
- のんきな患者肺を病む吉田は寒に入って高い熱を出し、身動きもできないまま眠れない夜の不安に苦しむ。
- 蠅真夏の宿場で、蜘蛛の巣から落ちた一疋の蠅が馬の背に這い上る。馭者は饅頭屋の店頭で将棋を指している。
- 蠅男師走の大阪、帝塚山に焼場のような臭いが漂う。帆村荘六は煙の出る奇人館の暖炉で半焼けの屍体を見つける。
- 破戒信州飯山の小学校で教える瀬川丑松は、被差別部落の出身であることを隠せという父の戒めを守って暮らしている。
- 白痴戦争末期の東京の場末で、文化映画の演出家見習いの伊沢は、仕立屋の離れの小屋に間借りしている。
- 白昼夢晩春の蒸し暑い午後、私は場末の埃っぽい大通りを、用事か散歩かも思い出せぬまま歩いていた。
- 歯車知人の結婚披露式へ向かう僕は、レエン・コオトを着た幽霊の噂を聞き、視野に回る半透明の歯車を見る。
- 葉桜と魔笛葉桜のころになると、老夫人は三十五年前に島根の城下まちで過ごした春を思い出す。
- 走れメロス村で羊を飼って暮らすメロスは、人を信じられずに次々と人を殺す王に怒り、城へ乗り込んで捕まる。
- 鼻池の尾の禅智内供は、顋の下まで垂れた長い鼻を内心ずっと苦にしている。人前では気にしない顔ですましている。
- 花のき村と盗人たち初夏の昼、五人組の盗人が花のき村にやって来る。かしらは藪のかげで待ち、四人の弟子に村を探らせる。
- ハムレット敗戦の翌年の夏、高原の避暑地で古風な装いの白髪の老人が噂になる。連れの青年祖父江がその素性を語りだす。
- 春の鳥九州の城下町で英語と数学を教える「私」は、城山の頂で、不思議な笑い方をする少年に出会う。
- 春は馬車に乗って海辺の家で、胸の病気で寝ついた妻を彼が看病している。妻は寝台から庭の松の葉が光るのを眺めている。
- 手巾法科大学教授の長谷川謹造は、初夏の午後にヴエランダの籐椅子でストリントベルクの作劇術を読んでいる。
- 半七捕物帳半鐘の怪江戸の下町で、火事でもないのに夜ごと半鐘が鳴る。見張りがいるあいだは鳴らず、気をゆるめると鳴り出す。
- 半七捕物帳石灯籠天保十二年の暮れ、十九歳の半七は、小間物屋菊村の娘お菊が浅草へ出かけたまま帰らないと聞く。
- 半七捕物帳勘平の死安政五年の暮れ、京橋の鉄物屋和泉屋の素人芝居で、勘平を演じた若旦那の角太郎が本物の刀で腹を切って死ぬ。
- 半七捕物帳お文の魂冷たい雨の夜、少年の「わたし」はKのおじさんから、叔父が語らなかった「おふみの一件」を聞かせてもらう。
- パンドラの匣終戦の日に喀血を打ち明けた二十歳の小柴利助は、結核療養所「健康道場」に入り、親友へ手紙を書き始める。
- ひかりの素足山小屋で父と夜を明かした一郎と弟の楢夫。朝になって、楢夫は風の又三郎に言われたことがこわいと泣き出す。
- 彼岸過迄大学を出たが職の見つからない田川敬太郎は、平凡を嫌い、世の中の不思議な事件に出会いたいと願っている。
- 眉山戦後の新宿で、小説家の僕たちは飲み屋の若松屋に通い、女中のトシちゃんを陰で眉山と呼んでいた。
- 人でなしの恋十九で旧家の門野家に嫁いだ京子は、女ぎらいと噂された美男子の夫に思いがけず深く愛される。
- 一房の葡萄横浜の山の手にある学校に通う「僕」は、海の藍色と船の洋紅色を自分の絵具ではうまく出せずにいる。
- 雛御一新の後に家が傾いた紀の国屋は、娘お鶴の見事な雛を、横浜の亜米利加人へ売ることに決める。
- 日の果てルソン島のサンホセ盆地に潜む部隊で、宇治中尉は隊長から軍医の花田中尉を射殺せよと命じられる。
- 秘密刺激に飽きた私は、浅草の寺の一間に隠れ住み、奇怪な書物や仏画に囲まれて暮らし始める。
- 病牀六尺六尺の寝床から動けなくなった正岡子規が、新聞に毎日短い文章を寄せていく随筆である。
- 瓶詰地獄南の島の村役場が、浜に流れ着いた三本のビール瓶を封をしたまま海洋研究所へ送る。中身は雑記帳の切れ端らしい。
- 風琴と魚の町風琴を鳴らして薬を売る父と母に連れられ、旅を続ける少女の一家が、日の丸の旗の出た海辺の町で汽車を降りる。
- 富嶽百景富士は低く俗な山だと思っている「私」が、昭和十三年の初秋に甲州の御坂峠の茶屋へ移り住む。
- 普請中雨あがりの夕方、渡辺参事官は改築中で休業同様の精養軒ホテルに入り、二人分の食事の席で人を待つ。
- 双子の星天の川の西の岸に住むチュンセ童子とポウセ童子は、毎晩お宮で銀笛を吹く双子の星だ。
- 舞踏会明治十九年十一月三日の夜、十七歳の明子は父親と一緒に、初めての舞踏会が開かれる鹿鳴館の階段を上る。
- 蒲団妻と三人の子がある作家の竹中時雄のもとへ、文学を志す女学生の横山芳子が弟子入りしてくる。
- 冬の日冬至の近いころ、肺を病む堯は間借りの二階から、葉を落とす木々と早く消える冬の日を毎日眺めている。
- フランドン農学校の豚農学校で飼われる豚は、自分のからだが白金と並べられたのを聞き、その値段を勘定してすっかり幸せになる。
- 不良少年とキリスト歯痛で十日寝こんだ私は、頬に氷をのせて太宰の本を読みかえし、看病する女房に当たり散らす。
- 文鳥早稲田に移った自分は、三重吉に勧められて文鳥を飼うことにする。金を渡したが、鳥と籠はなかなか届かない。
- 平凡三十九歳の小役人である語り手が、内職の賃訳が途切れた暇に、自分の平凡な半生を書き始める。
- 奉教人の死長崎の寺院で育てられた少年ろおれんぞは信心が堅く、いるまんのしめおんに弟のようにかわいがられる。
- 墨汁一滴病で筆を持つのも苦しくなった正岡子規が、十行でも一行でもよいから毎日書こうと思い立つ。
- 濹東綺譚小説『失踪』の舞台を探す老作家のわたくしは、六月末の夕方に玉の井の盛り場へ足を向ける。
- 母子像厚木の基地に近い警察署に、中学一年の太郎の担任が呼び出される。太郎は火いじりの件で黙りこんでいる。
- 坊っちゃん親譲りの無鉄砲で損ばかりしてきたおれは、物理学校を出て四国の中学校の数学教師になる。
- 舞姫明治の官吏太田豊太郎は、官命でベルリンに留学し、法律を学ぶうちに自分の生き方を疑い始める。
- マグノリアの木霧がじめじめ降るなか、諒安は険しい山谷の峯と谷を、沓の底を踏み抜きながらひとりで渡っていく。
- 魔術時雨の晩、私は大森の町はずれに住む印度人のミスラ君を訪ね、魔術を見せてほしいと頼む。
- 待つ二十の娘が、買い物の帰りに省線の小さい駅に立ち寄る。冷いベンチに坐って改札口を眺め、誰かを待つ。
- 祭の晩山の神の秋祭りの晩、亮二は十五銭をもらってお旅屋へ出かけ、見世物小屋の「空気獣」に入ってしまう。
- 満願四年まえの夏、私は伊豆の三島で小説を書いていた。ある夜、酔って自転車で転び、町の医者に駈けつける。
- 卍弁護士の妻の柿内園子が、ある作家に向けて自分の身に起きた事件を大阪の言葉で語り出す。
- 木乃伊波斯王カンビュセスが埃及に攻め入った軍に、都の風になじまない陰鬱な部将パリスカスがいた。
- 蜜柑曇った冬の日暮れ、疲れと倦怠を抱えた「私」は、横須賀発の上り二等客車で発車を待っていた。
- 道草外国から帰り駒込に世帯を持った健三は、雨の日の道で、縁を切ったはずの昔の養父の島田に出会う。
- 武蔵野画や歌でしか知らなかった武蔵野の今を確かめたくなった語り手が、渋谷村で過ごした秋冬の日記を並べる。
- 名人伝趙の都の邯鄲に住む紀昌は、天下第一の弓の名人になろうと志し、名手の飛衛に弟子入りする。
- 夫婦善哉一銭天婦羅屋の娘の蝶子は曾根崎新地の芸者になり、声自慢の陽気な妓として売れっ妓になる。
- 文字禍アッシリヤの都ニネヴェの図書館で、毎夜ひそひそと怪しい話し声がするという噂が立つ。
- 門役所に勤める宗助は、崖下の借家で妻の御米と静かに暮らしている。子はなく、二人は過去をあまり語らない。
- 夜叉ヶ池越前の山奥の琴弾谷で、鐘楼守の萩原晃は妻の百合と暮らし、一日に三度の鐘を撞いている。
- 安井夫人日向国清武村の儒者の二男、仲平は痘痕と片目で背も低い。郷里では「仲平さんは不男だ」と蔭で言われていた。
- 柳橋物語研屋の祖父と暮らすおせんは、上方へ発つ大工の庄吉から、帰るまで待っていてくれと頼まれる。
- 屋根裏の散歩者何をしても世の中が面白くない郷田三郎は、素人探偵の明智小五郎から犯罪の話を聞いて犯罪に惹かれていく。
- 藪の中山科の藪の中で、旅の侍の死骸が見つかる。検非違使は木樵りや旅法師から順に話を聞いていく。
- 山男の四月山男はにしね山の林で兎をねらううちに山鳥をつかまえ、日なたのかれ芝に寝ころんで空をながめる。
- やまなし小さな谷川の底を写した二枚の幻燈の話だ。五月の水の底で、蟹の兄弟がクラムボンのことを話している。
- 山の人生柳田國男が、山に入ったまま帰らなかった人々の記録と伝承を集め、そのわけを考えた研究である。
- 闇の絵巻東京を騒がせた強盗が、棒一本あれば闇の中を走れると語った。その記事を読み、私は爽快な戦慄を覚える。
- 雪渡り雪が堅く凍った日、四郎と妹のかん子は雪沓をはき、いつもは歩けない野原を森の近くまで渡っていく。
- 夢十夜「こんな夢を見た。」という書き出しで知られる、十の夢を描いた連作。
- 幼年時代実家から一町と離れていない家へ貰われた私は、実の母に会うため毎日のように実家へ通っていた。
- 吉野葛作家の「私」は、吉野の山奥に伝わる南朝の末裔、自天王を題材に歴史小説を書こうと考えていた。
- よだかの星よだかは顔がまだらで口の裂けたみにくい鳥で、ほかの鳥たちからいつも悪口を言われている。
- 夜長姫と耳男ヒダの若いタクミの耳男は、親方の身代りとして夜長の長者の邸へ行き、姫の持仏を彫る腕くらべに加わる。
- 羅生門平安時代の終わり、荒れはてた京都。主人に暇を出された下人が、羅生門の下で雨がやむのを待っている。
- 蘭学事始江戸の長崎屋に通う医師の杉田玄白は、篤学で知られる前野良沢にどうしても親しめずにいる。
- 李陵漢の武帝の時代、騎都尉の李陵は騎兵を持たない歩兵五千を率いて、匈奴の地へ深く攻め入る。
- 檸檬「えたいの知れない不吉な塊」に心を押さえつけられた「私」が、京都の街をさまよい歩く。
- 老妓抄老妓の小そのは財産を築いた晩年、健康で常識的な暮らしを望み、電気の仕掛けや新しい稽古事に親しんでいる。
- 六の宮の姫君昔気質の父母に大切に育てられた姫君は、両親を相次いで亡くし、乳母だけを頼りに古い屋形で暮らしていく。
- ろまん灯籠洋画家の入江新之助が亡くなったあとの家には、ロマンスを好む五人の兄妹と祖父母と母が暮らしている。
- 倫敦塔留学して間もない余は、ロンドンの人波と騒音におびえながら、地図一枚を頼りに倫敦塔へ向かう。
- 吾輩は猫である名前のない猫が英語教師の苦沙弥の家に住みつき、主人や家族、訪ねてくる友人たちを猫の目で眺める。
- 忘れえぬ人々三月の初め、雪の残る溝口の宿場で、洋服姿の旅の男が日暮れに旅人宿の亀屋へ泊まる。
- ヰタ・セクスアリス哲学者の金井湛は自然派の小説を読むうちに、自分だけが性欲に冷淡なのではないかと疑い始める。
条件に合う作品がありません。条件を減らしてみてください。