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あたまならびにはら

頭ならびに腹

横光利一

読了時間
約6分
文字数
2,760字
読みやすさ
ふつう
表記
新字旧仮名
読む速さ

初出: 「文藝時代 第1巻第1号」1924(大正13)年10月1日発行

三行でいうと

  1. 真昼に全速力で走る満員の特別急行列車で、一人の子僧が鉢巻をして周りに構わず唄い出す。
  2. 列車は名も知れぬ小さな駅で急に止まる。車掌は線路の故障で、ここより先へは進まないと告げる。
  3. 復旧の見込みは誰にも分からない。迂回の列車に乗るかどうか、群衆は互いの顔を窺って動けずにいる。

登場人物

子僧
特別急行列車の乗客で、手拭で鉢巻をし、窓枠を叩きながら大声で唄い続ける。
紳士
群衆の中にいる肥大な男で、大きく突き出た腹の下に金の鎖を光らせている。
車掌
各車の口に現れ、列車はもうここより進まないと乗客に告げて回る。

読みどころ

足止めされた群衆は、何を手がかりに行き先を決めるのか。誰にも先が見えないとき、人は一人の振る舞いにそろって引きずられていく。そんな群衆のそばで、周りに一切構わない子僧が唄い続ける。その対比がこの短い作品の芯になっている。

まず冒頭の一文に目を留めたい。「沿線の小駅は石のやうに黙殺された」と書き、列車の速さを駅の側から描いている。人々は名前を持たず、「頭」や「腹」として動く。迷う群衆を「さて?」の三度の繰り返しだけで描く場面も見どころだ。

横光利一は、川端康成らとともに新感覚派の中心にいた作家である。この作品は1924年に同人誌『文芸時代』の創刊号に発表された。感覚をそのまま言葉にしたような文体は、当時の文壇に驚きを与えた。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

駅員たちが卓子を運び、急ぐ人は切符を出せばS駅へ引き返す列車でT線を迂回できると告げる。故障線と迂回線のどちらが早く着くかは分からず、群衆は互いの顔を窺うばかりで動かない。一人、また一人と切符を出す者がいても、群衆の頭は動かなかった。そこへ腹の大きな紳士が進み出て切符を差し出し、「これや、こつちの方が人気があるわい。」と薄笑いを洩らす。途端に群衆は卓子めがけて押し寄せる。

間もなく迂回線へ戻る列車が着き、群衆はそこへ殺到する。人の頭が紳士の太った腹を包んだまま、列車は発車した。空になった急行列車の窓から、一人取り残された子僧が顔を出す。静まり返ったプラットホームを見て「おッ。」と言うが、すぐにまた頭を振って唄い出す。

しばらくして駅員が線路を飛び越えてきて、H、K間の土砂崩壊の故障線が開通したと知らせる。乗客は鉢巻の子僧ただ一人だった。それでも急行列車は停まっていられず、空のまま全速力で目的地へ走り出す。子僧は窓枠を叩き、眼玉を振り子のように振りながら意気揚々と唄い続ける。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日