しんゆうこうかん
親友交歓
- 読了時間
- 約30分
- 文字数
- 14,688字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 昭和二十一年の九月、津軽の生家に避難していた私のもとへ、小学校の同級生だという平田が訪ねてくる。
- クラス会の相談に来たはずの平田は酒を出せと言い、私が大事にしていたウイスキイを茶碗であおり続ける。
- 酔った平田は女房にお酌をさせ、毛布をくれとねだる。私は相手を怒らせまいと、日暮れまで機嫌を取り続ける。
登場人物
- 私
- 罹災して妻子と津軽の生家に身を寄せている作家で、幼名は修治。
- 平田
- 小学校の同級生を名乗る野良着姿の大きな親爺で、鉄砲撃ちの腕と東京時代の話を自慢する。
- 女房
- 私の妻で、小さいほうの子供を抱いて客に挨拶に出る。
読みどころ
語り手は、はじめから訪ねてきた男を「あっぱれな奴であった」と言い、「好いところが一つもみじんも無かった」とも書く。喧嘩も何も起こらない半日の酒盛りが、なぜ死ぬまで消えない痕跡になるのか。読者はその答えを、男の言動の一つ一つから自分で見つけることになる。
平田は親しさを押し売りし、恩を返すと言いながら、ウイスキイも煙草も持って帰る。語り手は罹災者の身の上を思い、軽薄な社交家として愛想よく振る舞い続ける。その途中で、語り手は木村重成や神崎与五郎、韓信の忍耐の美談を思い出す。自分の見方を改めていく長い独白は、この作品のもう一つの読みどころだ。題を「孤独」とするであろう、と書くくだりに注目したい。
太宰治が戦後に津軽の生家で過ごした時期の体験をもとにした短編で、1946年に『新潮』に発表された。語り手が自分の惨めさを笑いに変える語り口は太宰治らしいもので、苦い可笑しさが最後の一言まで続く。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
平田は突然「酔って来たあっ!」と喚き、唸って酔いと闘う。三十秒後にはけろりとして、鴨を撃ったら進呈すると約束し、また女房に絡む。女房は子供が泣いていると言って逃げる。平田は寝室を見せろと騒ぎ、私は手をとってなだめる。
平田が歌でもやらかそうかと言い出す。私は昼から日暮れまで相手をしても、彼を好ましく思えずにいた。せめて別れ際に、悲しい声の民謡で涙ぐませてほしいと本気で願う。しかし出てきたのは「山川草木」で始まる戦場の詩で、後半は忘れたという。帰ると言い出した平田は、ウイスキイをもらって行くと告げる。私が飲み残しの角瓶に注ぎ足していると、押入れにある新しい一本を寄こせと言う。私は「知っていやがる」と震え、かえって痛快になって笑う。最後の一本と煙草を渡し、値段を教えてやろうかと思うが、やめる。
ろくに記憶にもない相手と、たっぷり半日の親友交歓をしたことになる。玄関まで送り、いよいよ別れるとき、平田は私の耳元で烈しく「威張るな!」と囁く。
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青空文庫で無料で読む図書カード:親友交歓本で読む
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日