ひがんすぎまで
彼岸過迄
- 読了時間
- 約6時間30分
- 文字数
- 194,557字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「朝日新聞」1912(明治45)年1~4月
三行でいうと
- 大学を出たが職の見つからない田川敬太郎は、平凡を嫌い、世の中の不思議な事件に出会いたいと願っている。
- 友人須永の叔父の田口に職を頼んだ敬太郎は、ある紳士の行動を探るよう頼まれ、小川町の停留所に立つ。
- やがて敬太郎は、須永と従妹の千代子が幼い頃から結婚を望まれながら、互いに踏み出せずにいる事情を聞く。
登場人物
- 敬太郎
- 大学を卒業したばかりの青年で、職を探しながら浪漫的な事件に憧れている。
- 森本
- 敬太郎と同じ下宿にいる男で、数々の冒険談を語った後、下宿代を残して姿を消す。
- 須永
- 敬太郎の友人で、法律を修めながら職に就く気がなく、母と二人で暮らしている。
- 千代子
- 田口の姉娘で須永の従妹。思ったことをそのまま口にする率直な娘である。
- 田口
- 須永の叔父で、いくつもの会社に関係する実業家。敬太郎に紳士の尾行を頼む。
- 松本
- 須永の叔父で、自ら高等遊民と名乗る。雨の降る日には客に会わない。
- 宵子
- 松本の末の娘で、雛祭の前の宵に生まれた二つの女の子。
読みどころ
主人公の敬太郎は、世の中のどこかに不思議な事件が隠れていると信じている。ところが話が進むと、彼は事件の中心にいるのではなく、人の打ち明け話を聞く側に回っていく。読み進めるほど、他人の心の奥を知ることの難しさが見えてくる。
前半の見どころは、占い師の謎の言葉を手がかりに、敬太郎が蛇の頭を彫った洋杖を持って停留所に立つ場面だ。探偵小説めいた尾行は滑稽で、のんびりした味がある。後半は語り手が須永に替わり、千代子との関係を本人の言葉で語る。須永は自分と千代子を「恐れない女と恐れる男」と呼んでいる。この言葉に注目すると、二人がすれ違う理由が見えてくる。
夏目漱石は序文で、短篇を重ねて一つの長篇にする試みとしてこの作品を書くと述べている。題名は、元日から彼岸過ぎまで書く予定だったことから付けたものだ。1912年の元日から『朝日新聞』に連載された。大病の後に書いた最初の長篇で、『行人』『こころ』と合わせて後期三部作と呼ばれる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
停留所で敬太郎は、若い女と待ち合わせた黒子のある紳士を見つけ、洋食店から電車まで後をつける。田口に報告した後、その紹介状を持って紳士の松本を訪ねる。そこで女は田口の娘の千代子で、尾行は田口の悪戯だったと明かされる。敬太郎はその後、田口の世話で職を得る。松本の娘の宵子は、雨の晩に千代子が夕飯を食べさせている最中に急に倒れて亡くなった。松本が雨の日の客を断るようになったのはそれからである。
須永は敬太郎に、母が千代子を自分の嫁にと望み続けてきたことを語る。須永は千代子に惹かれながらも、夫婦になれば二人とも不幸になると考えて踏み出さない。鎌倉で高木という青年に会って嫉妬に苦しんだ須永は、東京へ戻った後、千代子から卑怯だと責められる。
最後に松本が、須永は母の実の子ではなく、小間使の御弓が生んだ子だと本人に打ち明けたことを話す。須永は卒業試験の後、一人で旅に出て、旅先から明るさを増した手紙を送ってくる。敬太郎は、自分は人の話を聞いて回っただけで、その中に入ることはできなかったと振り返る。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日