うだいじんさねとも
右大臣実朝
- 読了時間
- 約3時間50分
- 文字数
- 114,720字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字旧仮名
三行でいうと
- 実朝の死から二十年後、近習だった語り手が山奥で、仕えた将軍家の日々を問われるままに語り出す。
- 疱瘡の跡にも動じず歌と政務に冴えを見せる若い将軍の周りで、北条と和田の間に溝が深まっていく。
- 和田合戦ののち将軍は歌と遊びに傾いて渡宋を企て、京から戻った甥の公暁が鶴岳の別当となる。
登場人物
- 源実朝
- 十二歳で征夷大将軍となった将軍家で、和歌に秀で、のちに右大臣に任ぜられる。
- 私
- 十二歳で御所に上がって将軍家の傍に仕えた近習で、主の死後に出家し、山奥で思い出を語る。
- 尼御台
- 将軍家の母で、孫の公暁を鎌倉へ呼び戻して鶴岳の別当に就ける。
- 相州
- 執権の相模守義時で、語り手はその律儀な人柄の底に暗く下品な匂いを感じている。
- 公暁
- 前将軍頼家の子で将軍家の猶子となり、京で学んだのち鶴岳宮の別当となる。
- 和田左衛門尉義盛
- 侍所別当を務める武骨な老臣で、将軍家に重んじられている。
- 鴨の長明入道
- 京から下ってきた歌人で、将軍家の恋の歌を「真似事」と評する。
- 御台所
- 京の坊門信清の娘で、十三歳で輿入れした将軍家の妻。
読みどころ
源実朝はどんな人だったのか。語り手は世間の噂をことごとく退け、主を神のように尊い人として語る。疱瘡で顔が変わったときも、将軍家は「スグ馴レルモノデス」と笑って答えた。それでも語りの端々には、明るさの奥にある孤独がのぞく。将軍家は琵琶法師の語る平家の滅びに耳を傾け、「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。」とつぶやいている。
各章の頭には『吾妻鏡』の記事が漢文調で置かれ、その出来事を語り手がですます調で語り直す。将軍家の言葉だけが片仮名で書かれ、ほかの人物の声とはっきり分かれている。語り手は北条を下品と言い、公暁を卑しいと言う。この語り手の思い込みも読みどころである。鴨長明との対面や、公暁と浜で蟹を焼く夜の場面では、語り手が見ている将軍家とは別の姿が浮かんでくる。
太宰治が鎌倉幕府の三代将軍を描いた長編である。1943年に書き下ろしで刊行された。結びには語り手の声ではなく、『吾妻鏡』と『承久軍物語』、それに『増鏡』の文章が置かれている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
建保五年、陳和卿の造った唐船は由比浦に浮かばず、渡宋は立ち消えになる。京から戻った公暁は鶴岳の別当となる。語り手は将軍家に勧められ、夜に僧院を訪ねる。浜で蟹を焼いて食べながら、公暁は将軍家を嘲り、死のうと思っていると漏らす。語り手は思わず切りつけるが、公暁は身をかわして帰っていく。
将軍家は官位を重ね、建保六年に右大臣となる。公暁は千日の参籠と称して宮にこもり、髪も鬚も伸ばしたままでいる。翌年正月二十七日、雪の夜に鶴岳宮で右大臣の拝賀が行われる。出立の前に広元入道は腹巻を着けるよう勧めるが、仲章に退けられる。将軍家は鬢の毛を一筋抜いて形見に与え、庭の梅を見て歌を詠む。語り手の話はここまでで、あとは『吾妻鏡』と『承久軍物語』の記事が続く。
宮の門で義時は急に気分が悪くなり、御剣の役を仲章に譲って帰る。石段に近づいたところで公暁が将軍家を斬り、首を持ち去る。仲章も斬られる。公暁は三浦義村に使いを送るが、義村は義時と相談して討手を差し向ける。公暁は大雪の山中で討たれる。首が見つからないため、形見の髪一筋を棺に納めて葬る。御台所をはじめ多くの者が出家し、京の嘆きを伝える『増鏡』の一節で終わる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日