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もん

門

夏目漱石

読了時間
約4時間39分
文字数
139,199字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「朝日新聞」1910(明治43)年3月1日~6月12日

三行でいうと

  1. 役所に勤める宗助は、崖下の借家で妻の御米と静かに暮らしている。子はなく、二人は過去をあまり語らない。
  2. 叔父の死で学資が途絶えた弟の小六を引き取る。泥棒騒ぎを機に、崖の上の家主の坂井とも親しくなる。
  3. 京都で友人の安井から御米を得た過去を持つ宗助は、坂井の家で思いがけず安井の名を聞くことになる。

登場人物

宗助
役所勤めの男で、京都の大学を中途でやめ、妻と崖下の借家に住んでいる。
御米
宗助の妻で、三度子を失い、易者に子は育たないと告げられた。
小六
宗助より十ほど年下の弟で、叔父の死後に学資を断たれた高等学校の学生である。
坂井
崖の上に住む家主で、子どもが多く暮らしにゆとりがある。
安井
京都時代の宗助の学友で、御米を妹だと言って宗助に引き合わせた。
佐伯の叔母
叔父の死後、小六の学資をこの暮れ限りで出せないと告げる。
安之助
叔父の一人息子で、大学を出て月島の工場で事業に加わっている。

読みどころ

宗助と御米は仲の好い夫婦である。ただ世間とはほとんど交わらず、崖下の家で寄り添うように暮らしている。二人が人目を避ける理由は、物語の半ばまで明かされない。過去を抱えたまま日々をやり過ごす人に、救いはどこから来るのか。作品はその問いを、大きな事件ではなく静かな日常の中で追っていく。

冒頭、縁側に寝ころんだ宗助が「おい、好い天気だな」と声をかけ、御米は生返事をする。何も起きない日曜の場面から、夫婦の距離の近さと疲れが伝わってくる。弟の学資や手放す屏風、崖の上の家主の陽気な一家など、小さな出来事が積み重なる。そのたびに二人の過去が少しずつ浮かび上がる。御米の微笑みと、宗助がたびたび神経衰弱を口にするところにも注意して読みたい。

『門』は1910年に『東京朝日新聞』に連載された。『三四郎』『それから』と合わせて、夏目漱石の前期三部作と呼ばれる。前の二作が恋の始まりと決断を描いたのに対し、本作はその後を生きる夫婦を描いている。後の『こころ』にもつながる、罪を抱えて生きる人の物語として読める。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

坂井の弟が安井と満洲から出てきて、坂井の家へ来ると聞いた宗助は、御米に打ち明けられずに寝込む。翌日の晩は電車を降りて牛肉屋で酒を飲み、歩いて帰る。宗教に救いを求めた宗助は、役所を十日ほど休んで鎌倉の禅寺へ行く。若い僧の宜道の世話になり、老師から父母未生以前本来の面目を問う公案を与えられる。入室して見解を述べると、「もっと、ぎろりとしたところを持って来なければ駄目だ」と退けられる。

坐り続けても公案は通らない。宗助は、門の前に立ちすくんで日の暮れるのを待つ人間が自分だと感じ、何も得られないまま山を下りる。帰京後に坂井を訪ねると、弟と安井は数日前に蒙古へ帰っていた。宗助は、自分の名が安井に伝わったかを聞けずに帰る。同じ不安がこの先も繰り返されるだろうという予感が残る。

役所の淘汰を宗助は生き残り、月給が五円上がる。小六は坂井の書生として住み込み、足りない分を安之助が引き受ける段取りも自分でつけた。春が来て、御米は「本当にありがたいわね。ようやくの事春になって」と言う。宗助は縁側で爪を切りながら「うん、しかしまたじき冬になるよ」と答える。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日