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ししおどりのはじまり

鹿踊りのはじまり

宮沢賢治

読了時間
約12分
文字数
5,859字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日

三行でいうと

  1. 苔の野原で眠った語り手は、風のことばから鹿踊りのほんとうの精神を聞く。そこから昔の野原の話が始まる。
  2. 膝を悪くした嘉十は湯治に向かう。途中で栃の団子を鹿に残し、置き忘れた手拭を取りに引き返す。
  3. すすきの陰からのぞくと、六疋ほどの鹿が手拭のまわりを廻っている。やがて嘉十に鹿のことばが聞こえてくる。

登場人物

嘉十
おじいさんたちと北上川の東から移ってきて、粟や稗をつくる男で、栗の木から落ちて左の膝を悪くした。
わたくし
夕陽の苔の野原で眠り、風からこの話を聞く語り手である。
鹿
六疋ほどの群れで、嘉十の手拭を生きものではないかと疑い、一疋ずつ確かめに行く。

読みどころ

人と動物の境目がふっとほどける瞬間を描いた話だ。鹿たちは見慣れない手拭を生きものかと疑い、怖がりながら一疋ずつ確かめに行く。その臆病さと好奇心を、嘉十と一緒にすすきの陰からのぞくことになる。

いちばんの読みどころは鹿たちの会話だ。土地の言葉で話し、「うん年老りの番兵だ。ううはははは。」と笑い合う。後半では鹿が夕陽に向かって一疋ずつ短い歌をうたう。歌の言葉と、すすきやはんのきの光の描写が重なる。声に出して読むと調子がつかみやすい。

宮沢賢治が生前に出した童話集『注文の多い料理店』に収められた一編である。はじめと終わりに、語り手が風からこの話を聞いたと語る場面が置かれている。郷土の踊りの由来を、昔話のような枠に入れて差し出す作りになっている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

鹿は一疋ずつ手拭に近づき、そのたびに驚いて逃げ戻る。五番目の鹿は手拭をなめ、舌が縮まったと騒ぐ。最後の一疋が手拭をくわえて戻ると、鹿たちは跳びあがって喜ぶ。それから歌いながら手拭のまわりを廻り、角でついたり足でふんだりする。手拭は泥がつき、ところどころ穴があく。鹿たちは最初に手拭へ進んだ鹿から順に、団子を一口ずつ食べる。六疋めは豆粒ほどしか食べられない。

鹿たちは一列に並び、太陽を拝むようにまっすぐ立つ。それから一疋ずつ、はんのきと太陽とすすきを歌う。嘉十もこちらで太陽とはんのきを拝む。北から冷たい風が吹き、鹿ははげしく廻る。嘉十は自分と鹿のちがいを忘れ、「ホウ、やれ、やれい。」と叫んですすきの陰から飛び出す。

鹿は驚いて立ちあがり、すすきの波をわけてはるかに逃げていく。嘉十は苦笑いをし、泥のついた穴のあいた手拭を拾って西へ歩き出す。語り手は、この話をすきとおった秋の風から聞いたと結ぶ。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日