どんぐりとやまねこ
どんぐりと山猫
- 読了時間
- 約13分
- 文字数
- 6,269字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
三行でいうと
- ある土曜日の夕方、一郎のうちに山ねこからはがきが届く。めんどうな裁判をするので来てほしいと書いてある。
- 翌朝、一郎は谷川に沿って山を登る。栗の木や滝やきのこに、山猫がどちらへ行ったかを尋ねながら進む。
- 黄金いろの草地で馬車別当と山猫に会う。どんぐりたちは、誰がいちばんえらいかで三日も言い争っていた。
登場人物
- 一郎
- 山ねこからはがきを受け取り、どんぐりの裁判に呼ばれる。
- 山猫
- 黄いろな陣羽織を着た、緑いろの眼の山猫で、毎年どんぐりの裁判に苦しんでいる。
- 馬車別当
- せいの低いおかしな形の男で、山猫の馬車の世話をする。はがきを書いたのはこの男である。
- どんぐり
- 赤いずぼんをはいた黄金いろのどんぐりたちで、三百を超える数が草地に集まっている。
読みどころ
物語は一枚の「おかしなはがき」から始まる。字は下手で、墨は指につくほどがさがさしている。それでも一郎はうれしくてたまらず、家じゅう跳ねまわる。山の向こうに不思議な世界があり、そこから呼ばれる楽しさが話の芯にある。どんぐりたちは誰がいちばんえらいかで争っており、子どもにも大人にも身に覚えのある問いが、明るい山の景色の中で投げかけられる。
読むときは、音と繰り返しに耳をすませたい。きのこの楽隊は「どってこどってこどってこ」と鳴り、別当の鞭は「ひゅうぱちっ」と鳴る。一郎は山を登りながら、栗の木、滝、きのこ、りすに同じことを尋ねる。答えはそのたびに食い違う。裁判の場でも、山猫としずまらないどんぐりのやりとりが何度も繰り返される。はがきの文句を気にする別当や、威張ってみせる山猫のちぐはぐなふるまいも笑いを誘う。
『どんぐりと山猫』は、宮沢賢治が生前に出した唯一の童話集『注文の多い料理店』の最初に収められている。動物や木や滝と自然に言葉を交わすところに、賢治の童話の特色がよく表れている。短い話なので、賢治を初めて読む人の入口にちょうどよい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
どんぐりたちは、頭のとがったもの、まるいもの、大きいもの、せいの高いものがえらいと口々に言い張る。山猫が何度しずめても争いは終わらない。山猫に相談された一郎は、いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないものがいちばんえらいと言いわたせばよいと答える。お説教で聞いた話だった。山猫がそのとおりに申しわたすと、どんぐりはしいんと静まり、固まってしまう。
山猫は大喜びで、一郎に名誉判事になってほしいと頼む。そして次からのはがきに「用事これありに付き、明日出頭すべし」と書いてよいかと尋ねる。一郎が、それはやめた方がいいと答えると、山猫は残念そうにあきらめる。お礼に黄金のどんぐり一升と塩鮭のあたまのどちらがよいかと聞かれ、一郎はどんぐりを選ぶ。
一郎は白いきのこの馬車で家まで送られる。進むうちにどんぐりの光は薄れていき、馬車が止まると、あたりまえの茶いろのどんぐりに変わっていた。山猫も別当も馬車も一度に消え、一郎はどんぐりを入れたますを持って家の前に立っていた。それからあと、山ねこからはがきは来なかった。出頭すべしと書いてもいいと言えばよかったと、一郎はときどき思う。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日