おいのもりとざるもり、ぬすともり
狼森と笊森、盗森
- 読了時間
- 約12分
- 文字数
- 5,508字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
三行でいうと
- 小岩井農場の北に並ぶ四つの森の名の由来を、黒坂森の巨きな巌が「わたくし」に語って聞かせる。
- 四人の百姓が家族を連れて森に囲まれた野原へ移り住み、森に許しを得て畑を起こし始める。
- やがて子供や農具や粟が次々に消え、百姓たちは森に呼びかけながら一つずつ森を訪ねていく。
登場人物
- 百姓たち
- けらを着た四人の男で、おかみさんや子供を連れて野原に移り住み、畑を広げていく。
- 狼
- 狼森に住む九疋で、火のまわりを歌いながら踊り、いなくなった子供らに栗や初茸を食べさせていた。
- 山男
- 笊森にいる黄金色の目をした顔のまっかな男で、なくなった農具と一緒に笊の中に座っていた。
- 黒坂森
- 粟の行方をたずねられ、まっ黒な大きな足が空を北へ飛んでいくのを見たと教える。
- 盗森
- 松のまっ黒な森で、奥から手の長い大きな男が出てきて、盗人呼ばわりに怒ってどなる。
- 岩手山
- 銀の冠をかぶった山で、盗森と百姓たちの言い争いの場に厳かな声で割って入る。
- 巌
- 黒坂森のまんなかにある巨きな巌で、噴火で飛ばされてきたもの。この話を「わたくし」に聞かせた。
読みどころ
人が野原に住みつき、森と少しずつ付き合い方を覚えていく話である。百姓たちは畑を起こすにも木をもらうにも、まず森に大声でたずねる。森は一斉に答えて許す。人と自然の間に、頼みごととお返しの約束が生まれていく。その素朴なやり取りがこの作品の魅力である。
読むときは、同じ形で繰り返される呼びかけに注目したい。何かがなくなるたびに、みんなは好きな方を向いて森に叫ぶ。森の返事も毎回よく似ている。狼や山男や盗森の振る舞いはどこか子供っぽく、悪さをしても憎めない。語り手が黒坂森の巌から話を聞いたことになっている点も、この作品の面白いところだ。
宮沢賢治の生前に出た童話集『注文の多い料理店』に収められた一編である。舞台は岩手山のふもとにある実在の小岩井農場の北側で、作者がよく歩いた土地だ。開墾の苦労と収穫の喜びが、山や森の声と一緒に描かれている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
いなくなった子供らは、狼森で狼たちの火を囲み、焼いた栗や初茸を食べていた。百姓たちが返してくれと叫ぶと、狼は困って森の奥へ逃げ、ご馳走したから悪く思うなと叫ぶ。みんなはお礼に粟餅を狼森へ置いてくる。次の年には農具が消え、笊森で伏せてあった笊の中から、農具と一緒に山男が見つかる。山男は自分にも粟餅を持ってきてくれと叫んで逃げ、みんなは笑って二つの森に粟餅を届ける。
その次の秋、納屋の粟がすべて消える。狼も山男も知らないと答え、黒坂森は黒い大きな足が北へ飛んでいくのを見たと教える。盗森へ行くと、手の長い大きな男が証拠を出せとどなり、黒坂森の言うことはあてにならないとわめく。みんなが怖くなって逃げかけたとき、岩手山が、盗んだのは確かに盗森だと告げる。盗森は粟餅を自分で作ってみたかったのだと言って、岩手山は笑う。
家に戻ると、粟は納屋に戻っていた。みんなは粟餅を作って四つの森に届け、盗森にはいちばん多く持っていく。それから森はみんなの友だちになり、毎年冬のはじめに粟餅をもらうようになる。その粟餅も時節がらずいぶん小さくなったが仕方がない、と巌が最後に語って話は終わる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日