とうせいかつしゃ
党生活者
- 読了時間
- 約2時間11分
- 文字数
- 65,163字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 軍需品を作る倉田工業に臨時工として入り込んだ私は、警察に追われながら非合法の党活動を続けている。
- 指導者のヒゲが捕まり、ビラを持ち込んだ太田も検挙される。私は下宿を捨てて笠原の部屋へ逃げ込む。
- 臨時工の大量の首切りが迫る。私は須山や伊藤と、工場全体を動かすための最後の手を練り上げていく。
登場人物
- 私
- 倉田工業に他人の履歴書で入り込んだ党員で、写真が各警察に回っており、須山からは佐々木、母からは安治と呼ばれる。
- 須山
- 第二工場で働く同志で、調子が軽く色々な話を知っているため、頭が「スクラップ・ブック(切抜帖)」みたいだと笑われる。
- 伊藤ヨシ
- 何度も捕まりながら工場に潜り込んできた女の同志で、女工を仲間に引き入れるのがうまい。
- 笠原
- 商会でタイピストをしている女で、左翼の運動に好意を持ち、逃げ場を失った私を部屋に泊める。
- ヒゲ
- 私たちの一番上のポストにいるキャップで、千回近い連絡のうち自分から遅れたのは二回しかない。
- 太田
- 私が下宿の場所を教えていたただ一人の仲間で、ビラを工場に持ち込んで捕まる。
- S
- 私からビラの原稿を受け取り、その書き方の弱点を指摘する上の同志である。
- 清川
- 工場内の大衆党系の団体「僚友会」の中心にいる職工である。
読みどころ
この作品は、すべての私生活を手放して地下に潜った人間の毎日を、本人の語りで描いている。名前を偽り、下宿を転々とし、窓を開けることさえ避ける。そのなかで語り手は、個人の暮らしと運動の仕事がひとつに重なる生き方を目指していく。読者はその覚悟の強さと、それが周りの人に負わせる重さを、同時に突きつけられる。
注目したいのは、連絡や尾行をかわす細かな手順の書き込みである。待ち合わせの道の曲がり方、下宿を選ぶ基準、新聞の事件記事の読み方まで具体的に書かれている。その合間に、ゆで卵を持たせる母との面会や、笠原との暮らしのすれ違いが差し込まれる。仲間内で交わされる「五カ年計画を六カ年で!」のような冗談にも、張りつめた日々の空気が出ている。
小林多喜二は『蟹工船』で知られる作家で、本作は自身の地下生活を下敷きにして書かれた。原稿の末尾には一九三二年八月の日付があり、作者附記で同志の蔵原惟人に捧げられている。前編のまま終わっており、その後の巻は書かれていない。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
首切りは二十九日に一斉に行われると分かり、私たちはその前日に先手を打とうと決める。私は須山に、工場の中で公然と党のビラを撒かせる案を出す。須山は自分がやるべきだと引き受け、伊藤がビラを体に隠して工場へ運び込む段取りが決まる。須山は別れ際に、私だけは捕まらないでくれと頼み、二人は手を握り合う。
当日の昼休み、須山は屋上でビラを撒く。職工たちはビラを拾っては撒き返し、誰が撒いたのか守衛には分からなくなる。おやじが聞き回っても須山の名を言う者はおらず、第二工場とパラシュートの職場では会社に抗議しようという声まで上がる。その夜、私と須山と伊藤は三人でビールを一本飲む。
ところが次の朝、会社は臨時工六百人のうち四百人に二日分の日給を渡し、門のところで解雇してしまう。須山と伊藤も解雇組に入っていた。私は先手を打たれたと認めながらも、本工の中に残った仲間と、散らばっていった臨時工との連絡を手がかりに、闘いはかえって広がったと考える。三人が新しい仕事を始めたところで、話は前編として終わる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日