せんきゅうひゃくにじゅうはちねんさんがつじゅうごにち
一九二八年三月十五日
- 読了時間
- 約1時間31分
- 文字数
- 45,306字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 旧字旧仮名
初出: 一~四「戰旗 昭和三年十一月号」全日本無産者藝術聯盟本部、1928(昭和3)年11月1日<br>五~九「戰旗 昭和三年十二月号」全日本無産者藝術聯盟本部、1928(昭和3)年12月1日
三行でいうと
- 小樽で労働運動に加わる夫の龍吉を、妻のお惠は誇りと不安の入りまじった気持ちで見守っている。
- 三月十五日の未明、警官が家々と組合に踏みこみ、龍吉や渡たち組合員が理由も告げられずに連れ去られる。
- 警察署の留置場で取り調べが始まり、仲間それぞれの覚悟と弱さが暴力の中で試されていく。
登場人物
- お惠
- 龍吉の妻で、夫の運動に好意を持ちながらも、警官が来るたびにおびえる。
- 龍吉
- お惠の夫で、三度目の検束で教師を辞めさせられ、小間物屋を営みながら運動に深く入っていく。
- 幸子
- 龍吉とお惠の娘で、父が連れて行かれる夜は寝たふりをして様子をうかがう。
- 渡
- 組合の若手の中心で、取り調べでは一言も口を開かない。
- 工藤
- 組合の書記で、電灯を止められた暗い家で妻と三人の子と暮らしている。
- お由
- 工藤の妻で、秋田の貧しい農家に生まれ、働きづめに生きてきた。
- 齋藤
- 戦闘的であれと口癖のように言う組合員で、留置場でも壁に体当たりして暴れる。
- 石田
- 騒ぐ時とそうでない時があると考え、齋藤たちの空元気を苦々しく見ている組合員である。
- 佐多
- 研究会に通う会社員で、息子の安定した暮らしを願う母親と運動のあいだで揺れる。
読みどころ
この作品には一人の主人公がいない。夜明け前の一斉検挙に巻きこまれた人々が、それぞれの場所で同じ出来事を受け止める。運動の中心にいる者もいれば、生活のために組合に入っただけの者もいる。家に残された妻や子もいる。権力に踏みこまれたとき、人は何を支えにして持ちこたえるのか。その問いを、作品は何人もの姿を並べて差し出す。
前半は家族の側から描かれる。寝たふりをしながら家宅捜索の音を数える幸子の場面は、子どもの目で見た恐怖として生々しい。お由が夫を「まだ、まだねえ」と送り出す場面と比べると、残される者の覚悟の違いが見えてくる。後半の留置場では、壁の落書きを読み歩く渡と、母を思って崩れていく佐多が対照をなす。本文のところどころに「×」や「以下削除」とあるのは、発表当時の検閲で伏せられた箇所である。
小林多喜二は1928年3月15日に実際に起きた一斉検挙を題材にこの作品を書き、雑誌『戦旗』に発表した。のちの『蟹工船』とあわせて、プロレタリア文学を代表する作家の出発点となった作品である。警察での暴力の描写は、作家自身のその後の運命と重ねて読まれることも多い。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
渡は取り調べで「どうぞ、勝手に」と言ったきり口を開かず、何度も気を失うまで痛めつけられる。工藤と鈴本も同じような目に遭い、鈴本は朦朧としたまま、自分が何を答えたのか分からなくなる。龍吉も吊るされ、打たれ、その翌朝にはひどい熱を出す。齋藤は取り調べの最中に叫んで走り回り、その後は独り言をつぶやくようになる。留置場で警察を出たらやめると決めた木村のような組合員もいる。札幌へ送られる木下に龍吉が煙草を三本渡そうとすると、巡査は一本しか許さない。
佐多は留置場の空気に参ってしまい、夜ごと母の夢を見る。面会に来た母が帰ってから四、五日後、佐多は警察を出される。明るい雪の街に立った佐多は、人目もかまわず声を上げて泣く。牢の中の渡は佐多が出たと聞いても特に何も感じないが、工藤は佐多のような知識人に裏で役立ってほしいと考える。
取り調べで事実が固まった者は、札幌の裁判所へ順に送られて予審に回される。送られる前、司法主任や特高は丼や寿司を振る舞い、ここで話した通りに言えばよいと何度も念を押す。四月には全員が札幌へ移され、空になった留置場の壁には日付と労働者への呼びかけを刻んだ落書きが残る。
読んでみる
青空文庫で無料で読む図書カード:一九二八年三月十五日本で読む
注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。
次に読むなら
公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日