ちよじょ
千代女
- 読了時間
- 約24分
- 文字数
- 11,988字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「改造」1941(昭和16)年6月
三行でいうと
- 十二の時に綴方が雑誌で一等に選ばれた和子が、来年十九になる今、自分は駄目な女だと語り始める。
- 褒められるほど友達は離れ、和子は綴方を嫌うようになる。だが叔父や母は、和子に書かせようとし続ける。
- 小学校の受持だった沢田先生まで家庭教師として家に来る。和子は書くことから逃げつつ、才能の有無に揺れる。
登場人物
- 和子
- 語り手。十二の時に綴方が『青い鳥』で一等に選ばれ、来年で十九になる。
- 柏木の叔父さん
- 母の弟で、淀橋の区役所に勤めている。和子の綴方を投書した人である。
- 岩見先生
- 『青い鳥』の選者で、和子の綴方を褒めた。のちに父へ長い手紙を書く。
- 沢田先生
- 小学校の受持の先生で、学校をやめたあと家庭教師として和子の家に来る。
- 父
- 私立大学の英語の教師で、娘に文章を書かせることに反対している。
- 母
- 伊勢の生まれで、和子の綴方に未練を持ち、弟である叔父の肩を持つ。
- 安藤さん
- 小学校で一番仲の良かった友達。当選のあと和子をあざけるようになる。
読みどころ
子どもの頃に褒められたことが、娘の人生を重くしていく話である。和子は自分を駄目だと繰り返す。それでも心の隅には「それでもどこか一ついいところがあるのだと、自分をたのみにしている頑固なもの」がある。才能が無いと思う気持ちと、あってほしいと願う気持ちのどちらも捨てられない。この揺れが作品の中心にある。
全編が和子の独り言のような語りで進む。読者は和子の言い分だけを聞くことになる。周りの大人がそれぞれの思惑で娘に書かせようとする姿は、和子の目を通すと滑稽でもあり、悲しくもある。沢田先生が雪の降るさまを「さらさらひらひら」と言い直していく場面は、笑いながらも胸が痛む。夕食の席で父と母が言い争う場面にも、家族の事情がよく表れている。
太宰治は女性の一人称で語る作品を数多く書いた。この作品はその一つで、若い娘の口調で書くことと才能の問題を語らせている。題名の千代女は江戸時代の俳人である。千代女が誰の口から、どんな話として出てくるかにも気をつけて読みたい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
沢田先生の見当外れな指導に三箇月耐えた和子は、父にすべてを話し、先生は来なくなる。その後、十八の娘が書いた本が評判になる。叔父さんは毎日のように家へ来て和子に日記を書かせようとし、和子は小説家になるより他に仕様のない女なのだと言い立てる。
女学校を卒業すると、和子は家事も稽古も馬鹿らしくなり、隠れて小説ばかり読むようになる。書いてみたい気持ちも出てきて、炬燵を眠り箱にたとえた短い話を書き、叔父さんに見せる。叔父さんは半分も読まずに手帖を投げ出し、「和子、もういい加減に、女流作家はあきらめるのだね」と言う。今では父のほうが、好きならやってみてもいいと言っている。母は加賀の千代女が「ほととぎす、ほととぎすとて明けにけり」と詠んで師匠に褒められた話をして、根気が大切だと言う。
和子は、自分は千代女ではないと心の中で答える。それでも前の日に岩見先生へこっそり手紙を出し、「七年前の天才少女をお見捨てなく」と書いていた。和子は「私は、いまに気が狂うのかも知れません。」と語り終える。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日