おうごんふうけい
黄金風景
- 読了時間
- 約6分
- 文字数
- 2,935字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「国民新聞」1939(昭和14)年3月
三行でいうと
- 子供のころの私は、のろくさい女中のお慶をいびり続け、肩を蹴って泣かせたこともあった。
- 二十年ほど後、病を得て船橋で療養する私の家に、故郷の訛のあるお巡りが戸籍調べに来る。
- お巡りはお慶の夫だった。お慶がいつも私の噂をしていると話し、一家でお礼に来ると言う。
登場人物
- 私
- 語り手。子供のころに女中のお慶をいじめた。いまは病を得て、千葉県船橋町の小さい家で療養しながら仕事をしている。
- お慶
- 私の家にいた女中。のろくさいと私にいびられた。いまはお巡りの妻で、四人の子の母である。
- お巡り
- 戸籍調べに来た四十に近い痩せた男。二十年ちかく前は私の村で馬車やをしていた。お慶の夫である。
読みどころ
子供のころに踏みにじった相手は、自分をどう覚えているのか。この短い作品は、その問いに向かって進んでいく。昔ひどいことをした側の恥ずかしさと、相手がいま幸せだと知ったときの心の揺れが、話の中心にある。
前半では、女中をいじめた記憶を、句点の少ない長い文で一気に語る。後半は療養先の船橋の家に移り、お巡りとの会話が明るく軽い調子で続く。語り手の私がどこで身構え、どこで崩れていくかを追うと読みやすい。冒頭に置かれたプーシキンの一節と題の黄金が何を指すのかは、読み終えてから考えたい。
太宰治が自分の過去をさらけ出すような語りで書いた短編である。己を責める暗さと、そこから立ち上がろうとする気配が同じ作品の中にある。太宰治を初めて読む人にも手に取りやすい長さだ。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
三日後、私は金のことで思い悩み、海へ出ようとして玄関の戸をあけた。外には浴衣を着たお巡りとお慶、赤い洋服の末の女の子が並んで立っていた。私は大きな声で、用事があるのでまたの日に来てほしいと言った。お慶がひとことも言わないうちに、逃げるように海浜へ出た。
私は竹のステッキで雑草を薙ぎ払いながら、町まで歩いた。心のどこかで負けたと囁く声が聞こえ、三十分ほどして家へ引き返した。すると海岸で、お慶の親子三人が石の投げっこをして笑っていた。お巡りは私を、いまに偉くなると褒めた。お慶は「あのかたは、お小さいときからひとり変って居られた。目下のものにもそれは親切に、目をかけて下すった」と誇らしげに答えた。
私は立ったまま泣いた。けわしい興奮は涙で溶けていった。私は負けたと思い、それをいいことだと受けとめる。かれらの勝利は自分のあすの出発にも光を与えると考えて、話は終わる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日