にほんふどうき
日本婦道記
糸車
- 読了時間
- 約25分
- 文字数
- 12,122字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年2月
三行でいうと
- 松代藩の軽いさむらいの家の娘お高は、病む父と幼い弟を支え、糸繰りの内職で家計を助けている。
- ある晩、生みの母お梶が病気だから会いに行けと父に言われ、お高は松本の実の親の家を訪ねる。
- 出世した実の親の屋敷で、お高は手厚くもてなされる。だが頭に浮かぶのは松代の貧しい家のことばかりだった。
登場人物
- お高
- 依田家の十九歳の娘で、乳ばなれしてすぐ西村家から松代へ貰われてきた。
- 依田啓七郎
- お高の育ての父で、松代藩の五石二人扶持のさむらい。二年まえに卒中を病んで勤めをひいた。
- 松之助
- 依田家の十歳の弟で、名義だけ家督を継いでいる。
- お梶
- お高の生みの母で、西村金太夫の妻。
- 西村金太夫
- お高の実の父。松本藩で勘定方頭取、五百五十石の身分まで出世した。
- 保之丞
- 西村家の末の弟で、五つまで深志の古い家で暮らした。
読みどころ
生みの親と育ての親のどちらの家が、自分の本当の家なのか。お高は実の親の深い愛情を目の前にして、それを受けるかどうかを選ばなければならない。豊かな暮らしと、貧しくても互いを思いやる暮らしが並べられ、娘の心の揺れが丁寧に描かれる。
冒頭で鰍を買って浮き浮きと帰るお高と、家に着いてからの弟のよそよそしい返事を比べて読みたい。松本の屋敷の夕食では、明るい広間のごちそうと、松代の貧しい膳が交互に浮かぶ。父が背を向けたまま松本行きを切り出す場面は、読み進めると意味が変わってくる。題名の糸車の音にも耳を澄ませたい。
『日本婦道記』は、山本周五郎が武家の女性たちを描いた短編の連作である。本作は、家族のために黙って働く娘の芯の強さを、病気の父と幼い弟との貧しい日々のなかに描いている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
お梶の病気は拵えごとだった。お高が松代へ帰ると言いだした夜、お梶は依田の父からの手紙を渡す。西村から養育料を受け取り、お高を西村のむすめにする話がついていた。父はお高の顔を見ては決心が鈍ると考え、いつわりを言って立たせたのだった。お梶は泣いて引きとめ、金太夫や兄弟もくどくが、お高は松代へ帰ると繰り返す。
翌朝お高は松本を立ち、三日めに松代へ着く。手紙を読まなかったのかと問う啓七郎に、お高は手をついて家に置いてほしいと頼む。貧しくても親と子がそろって暮らすことが仕合せだと言う。稽古から帰った松之助も涙ながらに頼み、啓七郎はついに「……では家にいるがよい」と答える。
春の朝、お高の繰る糸車の音が聞こえてくる。啓七郎は松之助に、姉上は父とおまえのために仕合せになれる運を捨ててくれたのだと話す。成人したら姉上を仕合せにしなければいけないと言い聞かせると、松之助ははっきりと頷く。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日