このページには広告(Amazonの商品リンク)が含まれます。

にほんふどうき

日本婦道記

不断草

山本周五郎

読了時間
約22分
文字数
10,706字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年5月

三行でいうと

  1. 米沢藩士の登野村三郎兵衛に嫁いだ菊枝は、半年ほどで良人の態度が急に冷たくなり、わけも分からず離縁される。
  2. 良人は千坂対馬の腹心だった。菊枝は実家で、千坂ら七人の重臣が主君に迫った事件を知る。三郎兵衛も退身していた。
  3. 菊枝は父に勘当されて家を出る。お秋と名を偽り、農家の隠居所で目の不自由な姑の世話を始める。

登場人物

菊枝
三郎兵衛の妻で、仲沢庄太夫の娘。嫁いで半年あまりで離縁される。
三郎兵衛
菊枝の良人の登野村三郎兵衛。執政の千坂対馬に認められ、奉行所で重い役目を勤めていた。
姑
三郎兵衛の母。年老いてから目が見えなくなり、唐苣が何よりの好物である。
仲沢庄太夫
菊枝の父。上杉家の三十人頭で、すでに隠居している。
門十郎
菊枝の兄で、仲沢家の跡目を継いでいる。
蜂屋伊兵衛
菊枝と三郎兵衛の縁組の仲人。
長沢市左衛門
二十軒村の名主。登野村の遠い縁家で、機屋を持ち米沢織を出している。
与市
千坂対馬の子の与市清高。三郎兵衛の家に客として来ていた。

読みどころ

優しかった良人が、ある日を境に人が変わったように妻を叱りつけ、ついには離縁する。なぜそうなったのか、菊枝には分からない。物語はこの謎を抱えたまま進む。去られた妻が、それでも良人の母のそばにいようとする。その心の動きを、短い紙幅で丁寧に追った作品である。

冒頭の「ちょうど豆腐をかためるようにです」という良人の言葉に注目して読みたい。菊枝が可笑しく思っただけのこの話が、のちに意味を持って戻ってくる。姑が好物にしている唐苣も大事だ。不断草とも呼ばれるこの野菜が、菊枝の祈りと二人の暮らしをつないでいく。目の見えない姑と名を偽った菊枝の会話には、どちらが何を知っているのかという緊張が続く。

山本周五郎は、武家の女性を描いた短編を『日本婦道記』としてまとめた。この連作は直木賞に選ばれたが、本人は受賞を辞退している。本作は上杉治憲の藩政改革を背景にし、政治の陰で家族が払った犠牲を描いた一編である。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

菊枝が蒔いた唐苣は芽を出す。秋になって食膳にのせると、姑は「これは唐苣ですね」と言い、不断草という名をほめて味わう。やがて三郎兵衛から越前で書いた手紙が届く。菊枝は姑に頼まれて読み上げるが、涙で中身がほとんど頭に入らない。手紙は仏壇に供えられる。菊枝は読み返したいと願いつつ、盗み読みはしなかった。年が明けると、菊枝は昼のあいだ長沢家の機場へ織り子に出る。姑と二人の暮らしを自分で支えようと考えたのである。三郎兵衛の便りは大阪や紀伊、長州からも届く。菊枝は、良人が誰かに頼まれて諸国の産業を見て回っているらしいと察し、帰参の望みを持つようになる。

五年が過ぎた安永六年の秋、宇都宮の宿から、三郎兵衛が病で寝ていたと知らせが来る。もう回復に向かっているという。姑は「おまえみとりにいってあげてお呉れ」と言う。その口ぶりは、菊枝を三郎兵衛の妻と認めるものだった。姑は、はじめから菊枝だと気づいていたと明かす。そして五年前のわけを語る。藩主の新しい政治の妨げになる老臣を除くため、千坂対馬はみずから反対派の中心になって彼らをまとめたのである。三郎兵衛が菊枝を去らせたのは、菊枝とその家に累を及ぼさないためだった。

菊枝は、豆腐のにがりの話が千坂のことを指していたと悟る。姑は菊枝の手を握り、ここへ移ってすぐから菊枝が来てくれると思っていたと告げる。菊枝は姑の膝にすがって泣く。付記によれば、三年後の安永九年に千坂家の閉門が解かれ、与市清高は江戸家老に任じられた。三郎兵衛の帰参も言うまでもないと結ばれる。

読んでみる

青空文庫で無料で読む図書カード:日本婦道記

本で読む

注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。

次に読むなら

公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日