にほんふどうき
日本婦道記
藪の蔭
- 読了時間
- 約26分
- 文字数
- 12,783字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年7月
三行でいうと
- 八百石の大寄合の家に育った由紀は、二百石の安倍休之助に嫁ぐ。祝言の夜、休之助の帰りが遅れていた。
- 休之助は大藪の蔭で重傷を負って運び込まれる。由紀は実家へ戻るのを断り、安倍の嫁として家に残る。
- 休之助はわけを話さず、八十金を調えてほしいと由紀に頼む。由紀は衣装を売り、実家の母にも金を頼みに行く。
登場人物
- 由紀
- 八百石の大寄合の家の娘で、安倍休之助に嫁ぐ。
- 安倍休之助
- 二百石あまりのおなんど役で、祝言の夜に大藪の蔭で重傷を負って見つかる。
- なほ女
- 休之助の老母で、毎年の彼岸に善光寺へ参詣する。
- 沢本平太夫
- 御納戸がしらで、休之助に頼まれた由紀が金を届けに行く。
- 吉岡頼母
- 由紀と休之助の仲人。
- 瀬沼新十郎
- 休之助と同じ年頃の侍で、雪の夜に安倍家を訪ねて来る。
読みどころ
祝言の夜、婿の休之助が大藪の蔭で倒れているのが見つかる。休之助は譫言のように「仕損じた、腹を仕損じた」と繰り返すだけで、何があったのかを語らない。由紀は理由を知らされないまま嫁として家に残り、金を調え、実家との縁も切れる。何も知らされないまま人を信じ続けられるのか。物語はこの問いを抱えたまま進む。
婚礼の夜の騒ぎは、綿帽子をかぶった由紀の耳に入る声と足音だけで語られる。そのあと由紀は「わたくし家へは戻りませぬ」と言い、自分の手で裲襠をぬぐ。後半では、由紀が大藪の前で足を止め、湿った黒い土を見おろす場面が繰り返し出てくる。姑のなほ女と由紀は、互いに隠し事を抱えたまま行き違う。その書き方にも目を向けたい。
『日本婦道記』は、山本周五郎が武家の女性の生き方を一話ずつ描いた連作短編である。この話では、謎が明かされる場面を由紀は戸の外で聞くことになる。最後に由紀が思う「人はこんなにも深い心で生きられるものだろうか」という一言まで、読み通してほしい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
由紀は衣装や道具を売って五十金をつくり、残りを実家の母に頼んで八十金をそろえる。母からは、休之助に役目の上の失態があり破談になるかもしれないと聞かされる。由紀は金を沢本平太夫に届け、訪ねて来た吉岡頼母には離縁の話を断る。父からは出入りを差し止める書面が届く。五十日ほど後、休之助は役目を解かれて食禄を半減される。
由紀は家計の足しにしようと、姑には隠して町家へ琴の出稽古に通う。なほ女の態度はしだいに尖り、稽古通いを咎められる。由紀は自分の苦労をわかってもらえないと悲しむ。
雪の夜、瀬沼新十郎が訪ねて来て休之助に打ち明ける。瀬沼は御納戸の金を百両ちかく使い込み、それを見つけた休之助を大藪で斬って罪をなすろうとした。休之助は金を返し、罪をかぶっていた。休之助は、意見しなかった自分にも半分の責任があると話し、江戸詰めに出世した瀬沼を励ます。聞いていた由紀は自分を恥じ、酒の支度を引き受けて、良人の支えになる妻になろうと心に誓う。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日