かがみじごく
鏡地獄
- 読了時間
- 約29分
- 文字数
- 14,017字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「大衆文芸」1926(大正15)年10月
三行でいうと
- 曇った春の終りの日、怪しい話を語り合う席で、友だちのKが一人の不幸な友人の話をはじめる。
- 友人の彼は幼い頃から鏡やレンズに惹かれ、中学で凹面鏡に出会ってからはレンズ狂になっていく。
- 両親を亡くして財産を継いだ彼は、鏡の部屋やガラス工場を作り、魔術のような仕掛けに溺れていく。
登場人物
- K
- 話の語り手で、子供の頃から彼のそばにいて、ただ一人実験室を訪ねる友人。
- 彼
- 仮りにそう呼ばれる男で、幼い頃から鏡やレンズに異様な嗜好を持つ。
- 小間使い
- 彼のお気に入りの小間使いで恋人でもある十八歳の娘で、鏡の部屋に一緒に入る。
- 技師
- 彼が庭に建てたガラス工場で働く技師。
読みどころ
鏡やレンズに取りつかれた男が、見る楽しみをとことん突きつめていく話だ。望遠鏡での覗き見に始まり、蚤の拡大、部屋一杯に映る顔と、仕掛けは少しずつ大きくなっていく。どれも種を明かせば理屈で説明できる。それでも語り手は、そのたびにぞっとする。理屈が分かっても消えない無気味さが、この作品の芯にある。
話は、集まりで友だちのKが語る形で進む。Kは子供の頃から彼のそばにいて、いつも仕掛けを見せられる側だった。魔法の紙幣や、凹面鏡に映った自分のニキビなど、Kが味わった驚きが細かく書かれている。読む人もKと並んで仕掛けを覗きこみ、道楽が狂気へ変わっていく過程を見届けることになる。最後に何が起きるかだけでなく、そこへ至るまでに積み重ねられる鏡の描写を味わいたい。
江戸川乱歩は明智小五郎の探偵小説で知られるが、謎解きのない怪奇幻想の短編も多く書いた。この作品はその系統に入る。同じく遠眼鏡が出てくる『押絵と旅する男』と読み比べるのもよい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
ある朝、Kは彼の家からの使いに起こされて実験室へ駆けつける。部屋では布を張った大きな玉が転がり回り、中から笑い声のような唸りが響いていた。扉の取手は抜け落ちて柄が折れていたため、Kは工場の大ハンマーで玉を割る。中から這い出してきた彼は顔の筋がたるみ、ゲラゲラ笑うばかりで、正気を失っていた。
出勤してきた技師の話では、玉は直径四尺ほどの中空のガラス玉だった。外側に水銀を塗って内側を一面の鏡にし、強い光の小電灯を取りつけたもので、前の晩遅くに完成して実験室へ運ばれていた。
Kは、彼が球体の鏡の中に入り、そこに映った自分の像を見て正気を失ったのではないかと考える。球の内側に何が映るのかは誰にも分からない。彼は狂ったまま世を去ったので、真相は確かめられない。それでもKは、鏡の玉の内部を冒したせいで彼が身を亡ぼしたという想像を、今も捨てられずにいる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日