ねこのじむしょ
猫の事務所
……ある小さな官衙に関する幻想……
- 読了時間
- 約13分
- 文字数
- 6,210字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字旧仮名
三行でいうと
- 軽便鉄道の停車場の近くにある猫の第六事務所では、四人の書記が猫の歴史と地理を調べている。
- 四番書記のかま猫は上の三人の書記に憎まれ、落ちた弁当や筆を拾おうと立つたびに怒鳴られる。
- かま猫が風邪で一日休むと、三毛猫は事務長にかま猫の噂を告げ、翌朝かま猫の机から原簿が消えている。
登場人物
- かま猫
- 四番書記で、夜にかまどの中で眠る癖があるため、いつも煤で汚れている。
- 黒猫
- 事務長の大きな黒猫で、少しもうろくしているが眼は立派にできている。
- 白猫
- 一番書記で、青い表紙の大きな帳面を開いて氷河鼠の産地を答える。
- 虎猫
- 二番書記で、床に落ちた弁当箱をかま猫に拾われて怒り出す。
- 三毛猫
- 三番書記で、かま猫の仕事を自分でやってみたくてたまらない。
- ぜいたく猫
- 氷河鼠を食べにベーリング地方へ行きたいと、事務所へ尋ねに来る。
読みどころ
四番書記のかま猫は、四十人の中から選ばれた書記である。仕事もよくできるのに、煤で汚れているせいでほかの猫に嫌われる。みんなによく思われようと工夫しても、かえってうまくいかない。窓の外で寝てみても寒くてくしゃみが止まらず、結局かまどに戻るしかない。生まれつきの体と癖で嫌われる者が、狭い職場の中でどう扱われるか。この話はそこを正面から描く。
語り手は物語の途中で顔を出し、「みなさんぼくはかま猫に同情します」と読者に話しかける。この一言で、読者は語り手と一緒にかま猫を見守ることになる。前半には事務所の滑稽な問答もある。事務長は地名を覚えきれず、書記と客に声をそろえて言い直される。「トバスキー酋長、徳望あり。」のような帳面の堅い文句も、猫の口から出るとおかしい。
宮沢賢治の童話で、1926年に雑誌『月曜』に発表された。動物の姿を借りて、役所のような小さな組織の空気を描いている。短い話なので、結末の一行まで続けて読みたい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
かま猫が風邪で休んだ日、事務長はかま猫がまだ来ないと言う。白猫は海岸へ遊びに行ったのだろうと言い、虎猫は宴会に呼ばれたのだろうと言う。三毛猫は、かま猫が自分が事務長になると言っているらしいと告げる。事務長は怒り、自分にも考えがあると言う。
翌朝、足のはれがひいたかま猫が来ると、大切な原簿が三つの机に分けてある。かま猫が挨拶をしても誰も返さず、事務長もかま猫を見ない。白猫がかま猫の原簿を読み上げて仕事は進み、かま猫は弁当も食べずにうつむく。昼過ぎから晩方まで、かま猫は泣いたりやめたりを繰り返す。
そのとき事務長の後ろの窓の向こうに、獅子の金色の頭が見える。獅子が入ってくると猫たちはうろたえて歩き回り、かま猫だけが泣きやんでまっすぐに立つ。獅子は「やめてしまへ。えい。解散を命ずる」と言い、事務所は廃止になる。語り手は最後に、半分は獅子に同感だと述べる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日