ぎょげんき
魚玄機
- 読了時間
- 約20分
- 文字数
- 9,597字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「中央公論」1915(大正4)年7月
三行でいうと
- 唐の都長安で、詩と美貌で名高い女道士の魚玄機が、人を殺して獄に下ったと噂が広まる。
- 倡家に育った少女は詩人の温岐に才を認められ、やがて素封家の李億の側室に迎えられる。
- 李のもとを離れて咸宜観の女道士となった玄機は、客を迎え、楽人の陳と深い仲になる。
登場人物
- 魚玄機
- 長安の倡家に生まれ、幼いころから詩を善くした女で、のちに咸宜観の女道士となる。
- 温岐
- 太原の詩人で玄機に詩を教えるが、醜い容貌から鍾馗と呼ばれ、試験には及第しない。
- 李億
- 温の友の素封家で、玄機の詩稿を見て彼女を側室に迎える。
- 趙錬師
- 李に頼まれて玄機の身を引き受けた道士。
- 采蘋
- 咸宜観で玄機と寝食を共にした、三つ年下の女道士。
- 陳某
- 体格が雄偉で面貌の柔和な楽人で、玄機より年下の少年。
- 緑翹
- 老婢の死後に咸宜観へ来た十八歳の婢。
読みどころ
晩唐の長安に実在した女詩人、魚玄機の生涯を描いた歴史小説である。玄機は男にも劣らない才を持ちながら、女であるために科挙の名簿に名を連ねることができない。その才と心がどこへ向かい、なぜ人を殺すことになったのか。作品はその道筋をたどっていく。
冒頭で、玄機が人を殺して獄に下ったことがまず示される。そこから幼いころへさかのぼり、事件に至るまでを順に語っていく。途中に玄機の漢詩がいくつも挟まれ、そのときどきの心が詩を通して見えてくる。師の温岐の物語も並んで進む。才に恵まれながら世に容れられない点で、二人はよく似ている。
森鷗外が大正四年に書いた作品である。末尾には典拠とした漢籍の一覧が付いており、史料に基づいて書いた鷗外の歴史小説の一つにあたる。漢語の多い硬い文章だが、場面は短く区切られていて、筋は追いやすい。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
咸通九年の初春に老婢が死に、緑翹が来る。旅から戻った陳は、玄機の振る舞いが気に入らないとき、緑翹と多く語るようになる。ある日玄機の留守に陳が来たが、待たずに帰ったと緑翹は告げる。玄機は二人の間に秘密があると疑い、扉に鎖を下して緑翹を問い詰める。緑翹は「存じません、存じません」と言うばかりで、玄機はその喉を絞めて殺してしまう。
玄機は屍を観の背後の穴に埋める。翌日、緑翹がいなくなったと聞いても陳は気にかけない。玄機は疑いを招かないよう、客を拒まなくなる。初夏に訪れた客の一人が、穴の新しい土に緑色の蠅が群がるのを見て従者に話す。話は従者の兄の衙卒に伝わる。この衙卒は以前、玄機を脅して金を取ろうとして笑って退けられた男だった。衙卒らが穴を掘ると、緑翹の屍が出てくる。
京兆の尹温璋に捕らえられた玄機は、弁解せずに罪に服する。陳は事情を知らなかったとして釈される。李億をはじめ多くの人が玄機の才を惜しんで救おうとするが、温は方城の吏となって都を離れていた。立秋のころ、玄機は斬に処される。その死を最も深く悲しんだのは温だった。物語は温の不遇な後半生をたどり、隋県に移されて死んだことを記して終わる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日