でし
弟子
- 読了時間
- 約48分
- 文字数
- 23,648字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 魯の游侠の徒である子路は、評判の学者孔子を辱めようと、雄雞と牡豚を手に乗り込む。
- 孔子の大きさに打たれて門に入った子路は、叱られ反問しながらも師の放浪の旅に従う。
- 邪が栄え正が虐げられる世に憤る子路は、やがて師と別れて衛に仕え、政変の渦中に入る。
登場人物
- 子路
- 魯の卞の游侠の徒で、名は仲由。孔子を辱めに出かけ、その日のうちに門人となる。
- 孔子
- 子路より九歳年長の師で、聴く者を説き伏せずにはおかない弁舌をもつ。
- 子貢
- 子路より二十二歳年下の才人で、師の弁舌にさえ警戒すべき点があると語る。
- 顔回
- 孔子がいつも賞める若者で、子路はその受け身な柔らかさを余り好まない。
- 子羔
- 孔門の後輩で、子路の推薦によって衛の大夫となった正直で気の小さい男。
- 南子
- 衛の霊公の夫人で、淫奔の噂が高く、政治にも口を出す。
- 孔悝
- 衛の孔家を継いだ若い当主で、子路の直接の主人に当たる。
読みどころ
この作品の中心にあるのは、子路という男がなぜ孔子から離れられないのかという問いである。子路は仕官の道を求めて師に従ったわけではない。己の才徳を磨くためでもない。求めるものの無い敬愛だけで、長い放浪に付き従う。その一方で、子路は正しい者が報われない世に最後まで納得しない。師に心服しながら、譲れない一点を胸に抱えたまま生きる姿が読みどころになる。
注目したいのは師弟の問答である。陳蔡で飢えに苦しむとき、子路は君子も窮することがあるのかと孔子に詰め寄る。死について訊ねると、孔子は「いまだ生を知らず。いずくんぞ死を知らん。」と答える。子路は心から感心するが、同じ答えに子貢は肩透かしを食った気がしている。語り手は子路の心の中の言い分をそのまま地の文に書き込み、師の判断に頷けない場面も隠さない。瑟の音を咎められて痩せるまで考え込む場面には、子路の一本気がよく出ている。
中島敦は『山月記』や『名人伝』のように、中国の古典に材を取った短編で知られる。本作は『論語』などに残る孔子と弟子たちの言葉を下敷きにし、子路を中心に据えて一人の人物の生涯を描いた。原文の末尾には昭和十八年二月と記されている。漢語の多い文章だが、子路の人柄が場面ごとに鮮やかに立ち上がるので、筋を追うのは難しくない。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
子路が魯に来ている間に、衛では孔叔圉が死ぬ。未亡人の伯姫は、弟で亡命中の前太子蒯聵のために動き出す。衛に戻った子路のもとへ、ある夕方、孔家の老である欒寧から使いが来る。蒯聵が都に入り、当主の孔悝を脅して己を衛侯に戴かせたと告げる。
子路は公宮へ駆けつける。外門では子羔に引き止められ、内門では公孫敢に拒まれるが、使いの者と入れ違いに中へ跳び込む。広庭の群臣に向かって台に火を放てと叫ぶと、蒯聵は石乞と盂黶の二人の剣士に子路を討たせる。
年には勝てず、子路は次第に疲れ、群集からも石や棒が飛ぶ。冠の紐が切れ、肩に剣を受けて倒れた子路は、冠を拾って正しく着け直し、紐を結ぶ。そして「見よ! 君子は、冠を、正しゅうして、死ぬものだぞ!」と叫び、切り刻まれて死ぬ。魯で政変を聞いた孔子は「柴(子羔)や、それ帰らん。由や死なん。」と言い、その通りになったと知って涙を流した。子路の屍が醢にされたと聞くと家中の塩漬類を捨てさせ、以後は醢を食膳に上さなかった。
読んでみる
青空文庫で無料で読む図書カード:弟子本で読む
注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。
次に読むなら
公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日