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ほうきょうにんのし

奉教人の死

芥川龍之介

読了時間
約20分
文字数
9,595字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字旧仮名
読む速さ

初出: 「三田文学」1918(大正7)年9月

三行でいうと

  1. 長崎の寺院で育てられた少年ろおれんぞは信心が堅く、いるまんのしめおんに弟のようにかわいがられる。
  2. 傘張の娘が身ごもり、腹の子の父はろおれんぞだと告げたため、少年は破門されて寺を追われる。
  3. 乞食になっても夜ごとの祈りを欠かさないまま一年あまりが過ぎ、長崎の町の半ばを焼く大火事が起こる。

登場人物

ろおれんぞ
御降誕の祭の夜に寺院の戸口で倒れていたところを養われた少年で、素性を誰にも明かさない。
しめおん
元は大名に仕えた槍の家柄のいるまんで、力が強く、ろおれんぞを弟のようにかわいがる。
傘張の娘
寺院に近い町に住む傘張の娘で、ろおれんぞと親しくしていると噂される。
傘張の翁
娘の父で、天主の教えを信じ、娘と一緒に寺院へ通っている。
伴天連
さんた・るちやの司祭で、白ひげを生やし、身寄りのないろおれんぞを寺で養う。

読みどころ

人は目に見えることだけで他人を裁いてよいのか。この作品はその問いを読者の前に置く。ろおれんぞは疑いをかけられても弁明しない。追い出されても信仰を捨てない。なぜそこまで黙っているのかは、最後の場面まで明かされない。

文章は「ござる」「ぢや」を使った昔のキリシタンの語り口をまねている。「えけれしや」や「はらいそ」のような言葉には括弧で意味が添えてあるので、慣れれば読み進められる。しめおんが艶書を突きつける場面では、ろおれんぞが「私はお主にさへ、嘘をつきさうな人間に見えるさうな」と言い放つ。そのあと戻ってきて謝るが、何を謝ったのかは語り手にも分からないと書かれている。この場面は覚えておきたい。

芥川龍之介が切支丹を題材にして書いた一連の作品のひとつで、大正七年に雑誌「三田文学」に発表された。末尾で語り手は古い本から写したと述べている。ただしその本は、芥川龍之介が作った架空の書物である。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

大火事で傘張の翁の家が燃え、娘の産んだ女の子が家に取り残される。しめおんは火に向かうが、火の勢いに押されて引き返す。そこへ乞食姿のろおれんぞが現れて火の中へ飛び込む。子を抱いて出てきたところで梁が折れ、ろおれんぞの姿は炎に消えた。子は娘の足もとへ投げ出されていて、けがもなく助かる。しめおんが火に飛び込み、焼けただれたろおれんぞを救い出す。

寺院の門に運ばれたろおれんぞの前で、娘は伴天連に懺悔する。子の父は隣に住む異教徒の男で、ろおれんぞに冷たくされた恨みから偽りを言ったのだと明かす。人々の間から殉教だと叫ぶ声が起こる。伴天連はろおれんぞの徳をたたえる途中で口をつぐみ、涙を流す。焦げて破れた衣の間から乳房がのぞき、ろおれんぞが女だったと分かったのである。

人々はろおれんぞのまわりにひざまずき、伴天連が経を唱える。経がやむと、ろおれんぞは安らかなほほ笑みを残して息を引き取る。その女の一生はほかに何も知られていないと語り手は述べる。後半の二章では、この話は長崎耶蘇会が出した「れげんだ・おうれあ」の下巻第二章によったと書き添えている。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日