ぶとうかい
舞踏会
- 読了時間
- 約11分
- 文字数
- 5,079字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字旧仮名
初出: 「新潮」1920(大正9)年1月
三行でいうと
- 明治十九年十一月三日の夜、十七歳の明子は父親と一緒に、初めての舞踏会が開かれる鹿鳴館の階段を上る。
- 装いの美しさで人目を集めた明子に、見知らぬ仏蘭西の海軍将校が近づき、日本語で踊りを申し込む。
- 二人はワルツを踊り、食卓でアイスクリームを食べながら語り合う。やがて花火の上がる露台に並んで立つ。
登場人物
- 明子
- 当時十七歳の令嬢で、仏蘭西語と舞踏を習っているが、正式の舞踏会に出るのはこの夜が初めてである。
- 仏蘭西の海軍将校
- 頬が日に焼け、濃い口髭のある男で、明子に日本風の会釈をして踊りを申し込む。
- 父親
- 頭の禿げた人の好い父親で、嬉しそうに娘を伯爵夫妻に紹介する。
- 青年の小説家
- 大正七年の秋に、鎌倉へ向かう汽車の中で明子と乗り合わせる。
読みどころ
鹿鳴館の舞踏会は、明治の日本が西洋の客を迎えた社交の場である。初めてそこに立った少女の目に、一夜の光景はどう映ったのか。華やかさの中に一瞬だけ影が差し、その影がこの短い作品の芯になっている。
まず菊の花に目を向けたい。菊は階段の籬から舞踏室の花瓶、二章の汽車の花束まで、場面を変えて何度も出てくる。将校の台詞は短いが、ところどころに皮肉な微笑や物思いが見える。話は二つの章に分かれていて、二章では時代が大きく飛ぶ。その飛び方に気をつけて読むとよい。
芥川龍之介は、明治の開化期を舞台にした作品をいくつか書いた。本作もその一つで、大正九年一月に雑誌『新潮』で発表された。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
一時間の後、明子と将校は星月夜の露台に立っている。黙って夜空を見つめる将校に、明子は国のことを思っているのかと尋ねる。将校は子供のように首を振り、何を考えているか当ててみるよう言う。赤と青の花火が消えかけたとき、将校は「私は花火の事を考へてゐたのです。我々の生のやうな花火の事を。」と明子に言う。
二の章では大正七年の秋に時が移る。今はH老夫人となった明子は、鎌倉の別荘へ向かう汽車で青年の小説家と乗り合わせる。網棚に置かれた菊の花束を見て、夫人は鹿鳴館の舞踏会の思い出を詳しく語る。
話が終わると、青年は将校の名を尋ねる。夫人は「存じて居りますとも。Julien Viaud と仰有る方でございました。」と答える。青年は『お菊夫人』を書いたピエル・ロテイだったのかと興奮する。夫人は不思議そうに青年の顔を見て、「いえ、ロテイと仰有る方ではございませんよ。ジュリアン・ヴイオと仰有る方でございますよ。」と何度も呟くばかりである。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日