このページには広告(Amazonの商品リンク)が含まれます。

いっかいのつち

一塊の土

芥川龍之介

読了時間
約19分
文字数
9,259字
読みやすさ
歯ごたえあり
表記
新字旧仮名
読む速さ

初出: 「新潮」1924(大正13)年1月

三行でいうと

  1. 足かけ八年寝ていた倅の仁太郎が死に、お住は嫁のお民に壻を取って家に残ってもらおうと考える。
  2. お民は壻を断り、男の仕事まで引き受けて働き続ける。家の中の仕事は年老いたお住に任されていく。
  3. 村ではお民が嫁の手本とたたえられる。お住は苦しみを誰にも言わず、孫の広次だけを頼みに暮らす。

登場人物

お住
仁太郎の母で、近所からは「後生よし」と言われている。
お民
仁太郎の嫁で、山国から移ってきた「渡りもの」の娘である。
仁太郎
お住の倅で、足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いていた。
広次
お民の男の子で、母よりも祖母のお住によくなついている。
与吉
仁太郎の従弟で、お住が壻の候補に考えている。
隣の婆さん
お住の話し相手で、お民の働きぶりをお住に話して聞かせる。

読みどころ

村の誰もが褒める働き者の嫁がいて、その陰に家の中の仕事を一人で背負う姑がいる。外から見える姿と家の中の実際は、少しずつ食い違っていく。どちらかを悪者にしないまま、一つの家の九年を追っていく小説である。

注目したいのは、炉端で薩摩藷を頬張る場面と、ランプの前で壻の話を持ち出す場面だ。二人のやり取りは土地の言葉で書かれていて、言い合いの調子がそのまま伝わってくる。語り手は、お住が本音の楽になりたさを口にできないところまで淡々と書いていく。台詞の裏にある気持ちを追いながら読むとよい。

芥川龍之介の作品の中でも、農村の一軒の家を舞台に暮らしの細部を描いた一編である。原文の末尾には大正十二年十二月と記されている。方言と旧かなに慣れるまでは少し時間がかかるが、話の筋はまっすぐで追いやすい。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

孫の広次は学校の先生から、母は近在に二人とない偉い人だと教わって帰る。お住は怒ってお民を罵り、泣きながら広次だけが頼みだと言い聞かせる。翌晩、藷を食った食わないの言い争いから、お民は「お前さん働くのが厭になつたら、死ぬより外はなえよ」と言う。お住は寝ていた広次を起こし、死んでとりついてやると叫び続ける。お民は炉側に寝ころんだまま聞き流している。

しかしお住は死ななかった。翌年の土用明け前、丈夫自慢のお民が腸チブスにかかり、発病から八日目に死ぬ。チブスで死んだ鍛冶屋の葬式で、穴掘り役を務めた後だった。雨の葬式には村の者が残らず集まった。総代役は、郡が近々お民を表彰する筈だったと話す。

その夜、お住は広次と一つ蚊帳に入るが寝つけない。もう働かなくてよく、小言を言われる心配もない。そのほっとした気持ちは、九年前に倅の葬式を済ませた夜の一息と重なる。お住は自分も仁太郎もお民も情ない人間に感じ、九年間の憎しみも将来の幸福も押し流される。「お民、お前なぜ死んでしまつただ?」とつぶやくと、涙がとめどなくこぼれる。四時を聞いてやっと眠りに入る頃、空は明け始めていた。

読んでみる

青空文庫で無料で読む図書カード:一塊の土

本で読む

注や解説の付いた文庫は、言葉の意味や時代背景を確かめながら読めます。

次に読むなら

公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日