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はくちゅうむ

白昼夢

江戸川乱歩

読了時間
約8分
文字数
3,662字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新青年」博文館、1925(大正14)年7月号

三行でいうと

  1. 晩春の蒸し暑い午後、私は場末の埃っぽい大通りを、用事か散歩かも思い出せぬまま歩いていた。
  2. 道ばたの人だかりの中で、身なりのよい四十男が、妻を殺した話を真顔で熱心に演説していた。
  3. 見物は喜劇を見るように笑うが、男は妻の死骸を屍蝋にしたと語り、その隠し場所を明かし始める。

登場人物

私
語り手で、晩春の午後に場末の大通りを歩いていて、男の演説を聞く群集に加わる。
真柄太郎
黄色の角帯を締めた四十男で、浮気者の女房を殺したと道ばたで演説する薬屋の主人である。
警官
群集のうしろに立ち、他の人達と同じようにニコニコ笑いながら男の演説を聞いている。

読みどころ

この作品では、語り手が見たものが夢か現実か分からない。冒頭で私自身が、白昼の悪夢であったかと問いかけている。男が真顔で人殺しを語っても、周りの大人も子供も喜劇のように笑うだけだ。男の話が本当なのか、本当だと分かっているのは誰なのか。その心細さが最後まで続く。

まず読みたいのは、演説が始まる前の大通りの描写である。白茶けた商家、輪になって歌う女の子達、悠長に見える繩飛びが、のんびりした春の午後を作る。そこへ男の熱心な口上と見物の笑い声が重なり、広告の楽隊の太鼓が伴奏のように鳴る。明るい昼の町と陰惨な話のずれが、読む人を落ち着かなくさせる。

江戸川乱歩は日本の探偵小説を切り開いた作家である。その一方で、こうした怪奇と幻想の小品も多く書いた。『白昼夢』は1925年に雑誌『新青年』に発表された。謎解きはなく、一人の通行人が見た一場面だけで終わる。短い中に、乱歩の描く都会の不気味さが詰まっている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

男は女房を千枚通しで殺し、死骸を五つに切り離したと語る。四斗樽に入れて水道の水を二十一日のあいだ流しっぱなしにし、死骸を屍蝋にしたという。見物は笑い続け、昨日から何度も同じ話をしていると野次を飛ばす者もいる。男は、皆は女房が家出をしたと信じているが、本当は自分が殺したのだと大声で笑う。

男は、巡査にも見つからない隠し場所を考えてあり、死骸は自分の店先に飾ってあると言って私を見る。振り向くと、すぐ後ろに薬屋の日覆があり、ガラス張りの中に人体模型が見えた。男はその薬屋の主人だった。私が日覆の中へ入ると、ガラス箱の中の女の顔が糸切歯をむき出して笑っていた。蝋細工の奥には黒ずんだ人間の皮膚が見え、一面にうぶ毛が生えていた。

私は倒れそうになりながら、男に見つからないように群集を離れる。振り返ると、群集のうしろで警官も笑いながら演説を聞いていた。私は警官に知らせようと思ったが、その気力がなく、眩暈を感じながら歩き出す。行手には果てのない白い大道が続き、陽炎が電柱を海草のように揺らしていた。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日