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でーざかのさつじんじけん

D坂の殺人事件

江戸川乱歩

読了時間
約44分
文字数
21,987字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊

三行でいうと

  1. 九月初旬の蒸し暑い晩、私はカフェ白梅軒の窓から、向かいの古本屋の様子が妙なことに気づく。
  2. 居合わせた明智小五郎と店に入ると、奥の間で古本屋の細君が首を絞められて死んでいた。
  3. 犯人の出入りした跡はなく、学生の証言も食い違う。十日後、私は推理を携えて明智の下宿を訪ねる。

登場人物

私
学校を出たばかりで職業がなく、カフェ廻りを日課にしている語り手。
明智小五郎
白梅軒で知り合った探偵小説好きの変り者で、古本屋の細君とは幼馴染だという。
古本屋の細君
美人で、身体中に傷があるとカフェのウエトレスたちに噂されていた。
古本屋の主人
毎晩古本の夜店を出しに出かける、きゃしゃな若い男。
小林刑事
名探偵と噂され、検事や署長をよそに一人で捜査を進める。
旭屋の主人
古本屋の一軒置いて隣で蕎麦屋を営む。

読みどころ

表は私と明智がカフェから見張っていた。裏の路地の出口にはアイスクリーム屋が店を出し、物干では隣の隣の菓子屋が尺八を吹いていた。それなのに犯人の出入りした跡がどこにも無い。犯人はどこから入って、どこへ消えたのか。格子のすき間に男を見た二人の学生は、着物の色を黒と白で正反対に言い張る。この二つの謎が物語を引っ張っていく。

語り手の私は、たびたび「読者諸君」と呼びかけて手がかりを示す。読者も一緒に謎を解くように誘われる。後半は明智の下宿でのやりとりだけで進み、書物で埋まった四畳半が舞台になる。物の証拠を積み上げる私と、人の心理から探る明智の違いに注目して読みたい。明智はかつて「僕は人間を研究しているんですよ」と私に語っていた。

江戸川乱歩の作品で、名探偵明智小五郎が初めて登場する一編である。作中では谷崎潤一郎の『途上』やポオ、ドイルの作品の名が挙がる。日本の家屋では外国の探偵小説のような犯罪は起こらないという説に、私が異を唱える場面もある。日本を舞台にした探偵小説を書こうとする意志が、登場人物の会話にも表れている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

十日後、私は明智の下宿を訪ねて推理を語る。犯人は太い棒縞の浴衣を着ていたので、格子のすき間から見た学生には白にも黒にも見えた。スイッチに明智の指紋しか無いのは、犯人が自ら発見者になって電燈をつけたからだ。犯人は旭屋の便所を借りるふりをして裏口を抜けた。こうして私は、明智こそ犯人だと詰め寄る。

明智は笑い出し、私の推理を一つずつ崩していく。電球の線が切れていただけで、明智が電燈を動かしたはずみでつながったのだった。着物の色については、ミュンスターベルヒの本を見せて、学生たちの見違いだと説く。旭屋に便所を借りた男もいなかった。

明智は二人の細君の生傷から秘密を探り、旭屋の主人に一種の聯想診断を試みていた。旭屋の主人は惨虐色情者で、被虐色情者だった古本屋の細君とひそかに通じていた。二人の行為は次第に度を越し、あの夜の死を招いた。便所を借りた男の話は、私たちの問いに乗って旭屋の主人が罪跡をくらまそうとしたものだった。物質的な証拠が無いため、明智は警察に訴えないと言う。そこへ夕刊が届き、蕎麦屋の主人が自首したと報じられる。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日