にせんどうか
二銭銅貨
- 読了時間
- 約34分
- 文字数
- 16,983字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「新青年」博文館、1923(大正12)年4月
三行でいうと
- 下駄屋の二階で貧しく暮らす松村武と「私」は、五万円の隠し場所を明かさないまま捕まった紳士泥坊の話をしていた。
- ある日、松村は「私」が机に置いた二銭銅貨が二つに割れることに気づく。中には南無阿弥陀仏の字を並べた紙切れがあった。
- 松村は紙切れを暗号と見て、点字を手がかりに解く。翌朝、変装した松村が五万円入りだという風呂敷包を持って帰ってくる。
登場人物
- 私
- 語り手で、松村と六畳一間に暮らす青年である。
- 松村武
- 「私」の同居人で、暗号の研究をしたことがあり、頭のよさで「私」と張り合っている。
- 紳士泥坊
- 新聞記者になりすまして電気工場から約五万円を盗み、捕まっても金の隠し場所を白状しなかった男である。
読みどころ
物語は「あの泥坊が羨しい」という一言から始まる。金に困った二人の青年が、世間を騒がせた泥坊の盗んだ金を探し当てられるのか。この筋に沿って話が進む。偽の銅貨や、念仏の文字で書かれた暗号、玩具の紙幣が次々に出てくる。仕掛けを一つずつ解いていく楽しさが、この作品の中心にある。
暗号を解く場面では、松村がどう考えを進めたかを順に語る。ベーコンの暗号やポオの『黄金虫』の名前も出てくるので、読者も一緒に解いてみたくなる。二人はふだんから「俺の方が頭がいい」と言い合っている。この張り合いを頭に置いて読むと、松村の話しぶりや「私」の黙った様子がよく分かる。語り手の「私」が何を語り、何を語らずにおくかにも気をつけて読みたい。
1923年に雑誌『新青年』に載った、江戸川乱歩の最初の作品である。のちに『D坂の殺人事件』などで知られるようになる乱歩も、ここから書き始めた。暗号を軸にした日本の探偵小説の早い例として、今も読まれている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
松村は暗号を「五軒町の正直堂から玩具の札を受取れ、受取人の名は大黒屋商店」と読み解いた。泥坊は本物の紙幣を玩具の札とすり替えて印刷屋に置いたと推理し、金歯や商人風の服で変装して札を受け取ってきた。五万円を届け出れば泥坊に名を知られるので、届けずに自分たちで使うつもりだと言う。得意げに語る松村を見て、「私」はこらえきれずに笑い出す。
「私」は、松村の訳した文を八字おきに読むと「ゴジャウダン」になると指摘する。松村が風呂敷包の新聞紙を取り去ると、出てきたのは本物そっくりの札だった。よく見ると「圓」の字の代わりに「團」と刷ってある。松村は笑いを失い、その日一日黙り込んでいた。
最後に「私」が種を明かす。正直堂は「私」の遠い親戚で、借金を頼みに行ったとき、大黒屋が注文した玩具の札を見ていた。暗号は「私」が作ったもので、煙草屋の娘が差入屋に嫁いだという話もでたらめだった。頭のよさで勝ちたくて仕組んだいたずらである。二銭銅貨については、くれた人に迷惑がかかるかもしれないとして、「私」は出どころを明かさない。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日