しんりしけん
心理試験
- 読了時間
- 約46分
- 文字数
- 22,621字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「新青年」博文館、1925(大正14)年2月
三行でいうと
- 苦学生の蕗屋清一郎は、同級生の下宿先の老婆が植木鉢の底に大金を隠していると知り、奪う計画を半年かけて練る。
- 老婆を殺して金の半分を奪った蕗屋は、それを拾った財布として警察に届ける。疑いは友人の斎藤にかかる。
- 決め手を欠く笠森判事は、二人に心理試験をかけると決める。蕗屋は試験の仕組みを考え抜き、答えを練習して備える。
登場人物
- 蕗屋清一郎
- 苦学して大学に通う秀才で、老婆の金を学資にしようと殺人を企てる。
- 斎藤勇
- 蕗屋の同級生で、老婆の家に部屋を借りている気の弱い男である。
- 老婆
- 六十に近い官吏の未亡人で、大金を床の間の植木鉢の底に隠している。
- 笠森判事
- 事件を担当する予審判事で、素人心理学者としても知られている。
- 明智小五郎
- 難しい事件で才能を現してきた男で、笠森判事と親しく事件の事情を聞いていた。
読みどころ
物語の前半は犯人の側から語られる。読者は蕗屋が殺人を企て、実行するまでを初めから知っている。読みどころは、この犯罪がどうして露見するかにある。発覚の恐れを一つずつ消していく男と、人の心の動きを測る試験との知恵比べが中心にある。
蕗屋が心理試験に備える場面に注目したい。脈搏を測る試験と、言葉の連想を見る試験の仕組みを、彼は一つずつ考えて対策を立てる。語り手はときどき読者に直接話しかけ、ここまでは物語の前提に過ぎないと告げる。財布を警察に届けた帰りに、蕗屋が心の中でつぶやく「まさか、自分の盗んだ品物を警察へ届ける奴があろうとは、ほんとうにお釈迦様でも御存じあるまいよ」の一言には、彼の自信がよく表れている。
江戸川乱歩の初期の短編で、1925年に『新青年』に発表された。作中では「D坂の殺人事件」から数年後の話とされ、同じ明智小五郎が登場する。犯人の計画を先に見せたうえで、その裏をかく筋の運びを楽しめる一編である。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
心理試験では、斎藤が犯罪に関係する言葉に強く反応し、蕗屋はほとんど反応を見せなかった。結果に納得できない笠森判事の書斎を明智小五郎が訪ねる。明智は、蕗屋の答えが問題の言葉でだけわずかに速いことと、「絵」に「屏風」と答えたことに目をつけ、判事に自分の考えを話す。
判事は斎藤の有罪が決まったと偽って、蕗屋を私宅に呼ぶ。弁護士を装った明智は、老婆の部屋の金屏風に傷が前からあったかを尋ねる。蕗屋は、事件の二日前に見たときは傷が無かったと答え、六歌仙の絵で小町の顔も覚えていると付け加える。ところが屏風は事件の前日に運び込まれた品で、二日前にはその部屋になかった。蕗屋は、事件の当日に見た屏風のことを話してしまったのである。
隣の部屋では、二人の問答が書き留められていた。蕗屋は弁明しても無駄だと悟り、その記録に署名と捺印をしてうなだれる。最後に明智は、心理試験が確かなのは相手がある物を知っているかを試すときだと説く。決まった機械を使わなくても、普段の会話で試験はできると語る。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日