あかいへや
赤い部屋
- 読了時間
- 約37分
- 文字数
- 18,023字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「新青年」博文館、1925(大正14)年4月
三行でいうと
- 異常な刺戟を求める七人の男が、緋色の垂絹で囲んだ「赤い部屋」に集まり、新入会員T氏の話を待つ。
- T氏は生まれつきの退屈に苦しみ、法律に触れない方法で百人近くを殺してきたと打ち明ける。
- 道の教え方や一声の注意で人を死なせた例を並べ、T氏は自分が狂人なのかと一同に判断を求める。
登場人物
- 私
- 「赤い部屋」に集まった七人の一人で、この話の語り手である。
- T氏
- 「赤い部屋」の新入会員で、今晩の話手を務める。
- 花ちゃん
- 階下のレストランの給仕女で、T氏とは以前からなじみである。
- N
- T氏の話に出てくる近所の按摩で、人の注意に逆らう強情者である。
読みどころ
退屈に耐えられない男が、法律に触れない殺し方を見つけたと語る話だ。道を一つ違えて教えたり、危ないと声をかけたりする。そうした親切に見える言葉で人が死んでも、誰も殺意を疑わない。悪事は必ず罰せられると信じる人の安心を、T氏の告白は具体的な手口で一つずつ崩していく。
話は二つの語りでできている。外側では「私」が、蝋燭の光と真紅の垂絹に囲まれた部屋の様子を伝える。内側ではT氏が、ですます調の落ち着いた口ぶりで自分の行いを打ち明ける。按摩に「左へ寄った、左へ寄った」と声をかける場面では、親切な言葉と殺意の食い違いが細かく描かれる。話が終わったあとの数頁も、部屋の描写とあわせて読みたい。
江戸川乱歩が1925年に雑誌『新青年』に発表した、初期の短編である。明智小五郎のような探偵は出てこず、謎を解く話でもない。T氏が言う「どんなシャーロック・ホームズだって見破ることの出来ない人殺し」を、乱歩は語りだけで組み立てている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
T氏が話し終えても、誰も口を開かない。そこへ給仕女が飲み物の銀盆を持って入ってくる。T氏は懐からピストルを出して給仕女に向けて撃ち、飲み物の器が砕ける。T氏はおもちゃだと笑い、給仕女はそのピストルを受け取ると、仕返しにT氏の胸を撃つ。T氏は床に倒れ、胸の傷から血を流してもがき始める。
立ち尽くす一同の前で、「私」は考える。T氏は百人目を自分のために残し、この部屋を死に場所に選んだのではないか。撃った給仕女が罪に問われない仕組みは、他人を殺したときの手口と同じだからだ。ところが倒れていたT氏は笑いをこらえきれずに立ち上がり、泣いていた給仕女も笑い出す。
T氏は種明かしをする。弾丸は牛の膀胱に赤インキを詰めた偽物で、身の上話も始めから終わりまで作りごとだった。給仕女はその手伝いをしていた。やがて電燈がともり、緋色の垂絹も銀の燭台もみすぼらしく見え、部屋から夢幻の空気が消える。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日