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やねうらのさんぽしゃ

屋根裏の散歩者

江戸川乱歩

読了時間
約58分
文字数
28,575字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新青年」博文館、1925(大正14)年8月増刊

三行でいうと

  1. 何をしても世の中が面白くない郷田三郎は、素人探偵の明智小五郎から犯罪の話を聞いて犯罪に惹かれていく。
  2. 新築の下宿の東栄館で、三郎は押入れの天井板が外れると気づき、屋根裏から他人の部屋を覗き始める。
  3. ある夜、節穴の真下で口を開けて眠る遠藤を見つけた三郎は、毒薬を垂らして殺すことを思いつく。

登場人物

郷田三郎
二十五歳で、どんな職業にも遊びにも興味が持てず、親からの仕送りで下宿を転々としている。
明智小五郎
素人探偵で、三郎に数々の犯罪談を聞かせた。
遠藤
東栄館の止宿人で、歯科医学校を出て歯医者の助手を勤めている。三郎が一番嫌っている男である。
北村
遠藤の隣の部屋に住む同郷の友達で、遠藤の父親から荷物の保管を頼まれている。

読みどころ

世の中のすべてに退屈した男が、屋根裏という誰にも見られない場所を手に入れる。そこから見えるのは、一人きりのときに本性をさらけ出す人間の姿だ。三郎はやがて、見つからない殺人ができるのではないかと考え始める。罪は本当に隠しとおせるのか。この問いが最後まで物語を引っぱっていく。

屋根裏の描写に注目したい。棟木を大蛇に、梁を肋骨にたとえて、暗い空洞を探検するように描いている。部屋を真上から見下ろすと、壁が消えて畳ばかりが広がる。その眺めの書き方も印象に残る。語り手は「諸君」と読者に話しかけ、計画には重大な錯誤があると先に明かしてしまう。明智とのささいな雑談についても、結末に深く関わると念を押している。こうした予告を頭に置いて、細部を拾いながら読むと面白い。

江戸川乱歩の初期の短編で、素人探偵の明智小五郎が登場する。1925年に雑誌『新青年』に発表された。犯人の側から犯行の一部始終を描き、そのあとで探偵が真相に迫る構成である。のぞき見の快楽と殺人への誘惑をここまで生々しく書いた点に、乱歩らしさがよく表れている。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

三郎は遠藤の部屋を訪ね、遠藤が便所に立った隙に行李から莫児比𣵀の瓶を盗み出す。だが調合を終えたところで、遠藤の口がまた節穴の真下に来るとは限らないと気づき、一度は計画をあきらめる。それでも屋根裏の散歩のたびに節穴を覗き続けた。十日ほどたったある夜、遠藤の口がふたたび真下に来ていた。三郎は毒薬を数滴垂らし、遠藤は鼾をかいたまま息を引き取る。三郎は瓶を節穴から落とし、ポケットに残っていた栓も落としに戻った。部屋は内側から締まっていて枕許に瓶があったため、遠藤の死は自殺として片づけられる。

三日後に明智が訪ねてきたので、三郎は得意になって遠藤の部屋へ案内する。北村の話から、遠藤が死んだ朝にも目覚し時計が鳴っていたとわかり、明智は自殺を疑う。帰りぎわ、明智は三郎が遠藤の死んだ日から煙草を吸っていないことを指摘する。半月ほど何事もなく過ぎ、三郎は気を許して遊び歩くようになっていた。ある夜、押入れを開けると天井から遠藤の首がさかさまにぶら下がっている。降りてきたのは明智で、三郎の真似をしたのだと言う。明智は天井裏で拾ったというシャツの釦を突きつけ、三郎は罪を打ち明ける。

二時間ほどのち、明智は種明かしをする。釦は明智が店で買ってきたもので、実は証拠は一つもなかった。疑いのきっかけは目覚し時計と、瓶が煙草の箱の中にあって中身が巻煙草にこぼれていたことだった。それに三郎が煙草を吸わなくなったことを結びつけ、自分も屋根裏から三郎の様子を覗いていた。明智は警察に訴えないと言い、三郎はもう自首する決心をしているはずだと告げて去る。三郎は死刑にされるときの気持ちをぼんやりと考える。三郎は瓶が巻煙草の上に落ちて毒がこぼれるところを実は見ていた。その記憶が意識の下に押し込められ、煙草を嫌いにさせていたのだった。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日