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そうせいじ

双生児

ある死刑囚が教誨師にうちあけた話

江戸川乱歩

読了時間
約24分
文字数
11,971字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新青年」博文館、1924(大正13)年10月

三行でいうと

  1. 死刑を待つ男が先生に、裁判でも隠し通したもう一つの罪を打ち明ける。殺した相手は双子の兄だった。
  2. 財産も昔の恋人も兄のものになった弟は、兄を殺して自分が兄になりすます計画を立て、実行に移す。
  3. 兄として暮らす男は、日記帳に兄のものらしい指紋を見つける。それを型に取り、新たな罪に使い始める。

登場人物

私
双生児の弟で、兄を殺してなりすました語り手。友人を殺して金を盗んだ罪で死刑を宣告されている。
兄
語り手と寸分違わない双子の片割れで、家督を継いで莫大な財産を受け取った。
妻
兄の妻で、語り手の昔の恋人。親に強いられて兄と結婚し、夫の入れ替わりに気づかなかった。
先生
語り手の告白を聞く相手で、話を裁判官と妻に伝えることを承諾する。
刑事
警視庁でも名うての名探偵で、語り手の指紋を取った二三日後に拘引状を持って現れる。

読みどころ

自分と寸分違わない人間を殺して、その人になりすます話である。殺した相手が自分と同じ顔をしている点に、この作品の怖さがある。語り手は兄を殺した翌日から鏡を恐れるようになった。味噌汁の表面にも自分の体にも兄の姿を見てしまう。罪をおかした人が自分の顔に追い詰められていく様子が、本人の口から語られる。

全編が死刑囚の告白で、先生に語りかける口調で進む。入れ替わりの準備は細かく、兄が手拭を右に捩るか左に捩るかまで調べ上げる。古井戸の脇で兄を絞め殺す場面では、瀕死の兄の首がじりじりと語り手の方へ向いてくる。その描写が生々しい。語り手は自分の頭の良さを誇っているが、どこで道を誤ったかは最後まで明かされない。日記帳の指紋をめぐる話の運びに注目して読みたい。

江戸川乱歩は日本の探偵小説を切り開いた作家である。本作は大正十三年に『新青年』に発表された初期の短編だ。指紋という科学捜査の知識を、犯人の語りの中に仕込んでいる。短い枚数で大きなどんでん返しを見せる、乱歩らしい一編である。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

兄になりすました語り手は、一年ほど財産と昔の恋人のいる暮らしに満たされる。やがて妻に飽きて遊びを始め、借金がかさんでいく。ある日、兄の日記帳の頁に指紋を見つけた。拡大鏡で比べると、自分の指紋とよく似ていながら筋が違っている。語り手はそれを兄の指紋だと考え、ゴム判に作った。弟の姿に変装して盗みに入り、現場にその指紋を残すようになる。兄としてのアリバイも作っておいたので、一度も疑われなかった。

知人が金庫に三万円を一晩しまうと聞き、語り手は夜に弟の変装で忍び込む。金を取り出したところで持主に見つかり、小刀で刺し殺した。ゴムの指紋に血をつけて壁に押し、逃げ帰る。翌日、刑事が訪ねてきて語り手の指紋を取っていく。二三日後に同じ刑事が現れ、語り手はその場で捕らえられる。

予審判事に罪状を告げられ、語り手は自分の間違いを知る。日記帳の指紋は兄のものではなかった。墨のついた指を拭いてから押した、語り手自身の指紋だったのである。紙に残っていたのは隆起の間の墨の跡で、写真で言えばネガにあたる。判事は、大正二年に福岡で現場の指紋がネガだった事件のことも話して聞かせた。語り手はこの手抜りを兄の呪いだと考え、兄の幻に苦しみ続ける。最後に先生へ、裁判官と妻に伝えてくれるよう念を押し、安心して死刑台に上ると言って話を終える。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日