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こはくのぱいぷ

琥珀のパイプ

甲賀三郎

読了時間
約36分
文字数
17,970字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新青年」1924(大正13)年6月

三行でいうと

  1. 大震災から間もない渋谷の高台で、役所勤めの私は暴風雨の夜に近所の男たちと夜警の番に立つ。
  2. 夜警の交替の直後、近所の福島の家から火が出る。消し止めた家の奥では、留守番の一家三人が死んでいた。
  3. 新聞記者の松本は現場の紙片に見覚えがあると言い、かつての宝石強盗と万引の事件に絡んだ男の名を挙げる。

登場人物

私
渋谷町に住む××省の書記で四十幾つの男で、週に一度ほど夜警を勤めている。
松本順三
新聞記者と自称する青年で、下町から避難して私の家の二三軒先に住み、夜警団の廃止を唱えている。
青木進也
退役陸軍大佐で、夜警団の団長のような立場にあり、軍備拡張論者でもある。
福島
青木の家と背中合わせに大きな家を新築した主人で、夜警に出ないため町内から憎まれている。
岩見慶二
宝石商会の社員だった青年で、銀座での万引の罪により禁錮二ヶ月に処せられた。
坂田音吉
福島の家の留守番に入った大工で、震災で子供四人のうち上の三人が行方不明になった。

読みどころ

暴風雨の夜に火事が起き、焼け跡から三つの死体が出る。誰が殺し、誰が火を付けたのか。この謎を、青年記者が現場に残った小さな物から順に解いていく。林檎の皮の巻き方、襖の傷の向き、砂糖の焦げる匂いが手がかりになる。推理の筋道を追う楽しさが、この作品の中心にある。

読むときは、語り手の私が見たことと聞いたことに注目したい。私は夜警の番小屋の時計で時刻を細かく覚えていて、その時刻がそのまま推理の材料になる。途中には、新聞が報じた銀座の万引事件と宝石強盗の話が挟まる。この話は本筋から外れて見えるが、読み終えると見え方が変わる。震災後の東京で夜警団について交わされる議論も、当時の空気を伝えている。

甲賀三郎は、理科の知識を使った謎解きを得意とした探偵小説の作家である。この作品も薬品と気圧の仕掛けを手がかりに組み立てられている。『新青年』に大正十三年六月に発表された。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

松本は検事の前で、男と女は別の人間に殺されたと言い出す。林檎の皮も襖の傷も女の刺し傷も左利きの仕業で、男だけが右利きの者に殺されていた。左利きの音吉が妻を刺し、その音吉を忍び込んでいた岩見が刺したと松本は推理する。子供の死因は塩酸加里の中毒だった。松本は福島の蔵書の薬局法註解を開き、砂糖と塩酸加里の混ぜ物に硫酸を一滴落とすと火が出ると示す。そして焼け跡の水銀と硝子管から仕掛けを明かす。U字管の水銀柱が気圧の低下で動き、硫酸を溢れさせる仕掛けだった。保険金を狙った福島がこれで火を付け、その砂糖が子供を死なせたことから殺し合いが起きた。罪を青木にかぶせようとした福島は、その場で恐れ入る。

二三日後に岩見が捕まり、白状した中身は松本の推理と合っていた。ただ、福島の家に忍び込んだ理由だけは話さない。しばらくして私は坂で松本に呼び止められる。食堂で松本は、福島の家がいつ建ったかを尋ねる。建つ前は石段だけがある空地だったと私が答えると、松本は記者の頃の話をして琥珀に金の環をはめたパイプを見せた。家に帰ると、そのパイプが私のポケットに入っていた。

やがて松本から厚い手紙が届く。宝石商会の強盗の際、支配人が落とした宝石を岩見がこっそり隠した。岩見の紙片は、石段の角から隠し場所を示す暗号だった。岩見が刑に服しているうちに、その土地に福島の家が建った。宝石を取り出しに忍び込んだ岩見は、音吉に斬りつけられた。銀座で岩見を罠にかけたのも、宝石を手に入れたのも、強盗の本人である自分だと松本は明かす。パイプは腕前の証拠と記念のために入れておいたと書き、「怪しい品ではありません、どうぞ安心してお使い下さい。」と結ぶ。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日