しゃよう
斜陽
- 読了時間
- 約2時間58分
- 文字数
- 88,859字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
三行でいうと
- 敗戦の年の冬、かず子は母と二人で東京の家を手放し、伊豆の山荘に移ってひっそりと暮らしはじめる。
- 南方から戻った弟の直治は酒に溺れ、かず子は六年前に一度会った小説家の上原に恋の手紙を書き送る。
- 返事の来ない上原にじかに会おうと上京の支度を始めたころ、母の病がにわかに重くなっていく。
登場人物
- かず子
- 語り手で、二十九歳。離婚して死産を経たのち、母と伊豆の山荘で暮らす。
- お母さま
- かず子と直治の母で、直治は一族でただ一人のほんものの貴族だと言う。
- 直治
- かず子の弟で、大学の中途で召集されて南方の島へ行き、終戦後に帰還する。
- 上原二郎
- 直治が尊敬する小説家で、六年前にかず子と地下室の店で酒を飲んだ。
- 和田の叔父さま
- 母の弟で、父の死後は一家の暮らしの面倒を見てきた。
- お咲さん
- 村でたった一軒の宿屋のおかみさんで、直治はそこで焼酎を飲む。
読みどころ
敗戦で家も財産も失っていく一家のなかで、人はどう生きるのか。この作品の中心にはその問いがある。かず子は「人間は恋と革命のために生れて来たのだ」と書き、古い道徳に逆らう道を選ぼうとする。静かに衰えていく母の美しさと、自分の胸に蝮が住むと感じるかず子の生々しさが、最後まで対になって描かれる。
冒頭の朝食で、母がスウプを一さじ吸って小さく声を上げる。この場面から、母の仕草を見つめるかず子の目が細やかに続く。語りはかず子の一人称で、母への敬語がていねいに重ねられている。途中には直治のノート「夕顔日誌」や、かず子が上原に宛てた手紙がそのまま挟まる。語り手の声がそのたびに変わるので、その移り変わりを追いながら読みたい。
太宰治の戦後の代表作の一つで、一九四七年に雑誌『新潮』に連載された。庭の蛇や萩の花、伊豆の海のように、暮らしの細部が人物の心と重なって書かれている。滅びていく家の物語を、悲しみのなかにもおかしみのある文章で読むことができる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
十月になって母の手がむくみ、衰弱は急に進む。叔父さまが駆けつけると、母は直治とかず子を指差してから、叔父さまに両手を合わせる。その日の秋の黄昏に、母は直治とかず子に見守られて息を引き取る。
葬儀のあと、直治がダンサアふうの女を山荘に連れてくる。かず子はそれをきっかけに上京し、荻窪、阿佐ヶ谷、西荻窪と上原を捜し歩く。チドリという店で見つけた上原は、六年前とはまるで違う姿になっていた。その夜、かず子は福井という画家の家の二階で上原と結ばれる。同じ朝、直治は山荘で自殺していた。
直治は遺書に、ある洋画家の妻への恋を打ち明け、最後に「僕は、貴族です」と書く。一箇月後、かず子は上原に最後の手紙を書く。子を身ごもったこと、古い道徳と争いながらその子を育てていくことを告げる。そして生まれた子を一度だけ上原の妻に抱かせ、「これは、直治が、或る女のひとに内緒に生ませた子ですの」と言わせてほしいと願う。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日