にんげんしっかく
人間失格
- 読了時間
- 約2時間25分
- 文字数
- 72,495字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年6~8月号
三行でいうと
- 人間の生活というものが見当つかない葉蔵は、幼い頃から道化を演じて周りを笑わせ、本心を隠して生きてきた。
- 上京した葉蔵は画学生の堀木から酒と煙草と女を教わり、カフエの女給ツネ子と鎌倉の海に身を投げる。
- 生き残った葉蔵は女のもとを渡り歩いて漫画を描き、酒を止めるよう諭す煙草屋の娘ヨシ子と所帯を持つ。
登場人物
- 葉蔵
- 手記の書き手で、東北の田舎の家の末っ子。人を恐れ、道化を演じて人とつながろうとする。
- 竹一
- 中学の同級生で、葉蔵がわざと失敗したのを見破り、女に惚れられる、偉い絵画きになると予言する。
- 堀木正雄
- 画塾で知り合った六つ年上の画学生で、葉蔵に酒と煙草と淫売婦と質屋と左翼思想を教える。
- ツネ子
- 銀座の大カフエの女給で、夫は詐欺罪で刑務所にいる。
- ヒラメ
- 父の別荘に出入りしていた書画骨董商の渋田で、葉蔵の学校の保証人になっている。
- シヅ子
- 甲州生まれの雑誌記者で、五つの娘と暮らしながら葉蔵を引き取り、漫画の仕事を世話する。
- シゲ子
- シヅ子の娘で、葉蔵を「お父ちゃん」と呼ぶ。
- ヨシ子
- 京橋のバアの向かいにある煙草屋の娘で、人を疑うことを知らない。
- マダム
- 京橋のスタンド・バアの主で、葉蔵を店の二階に住まわせる。
- 薬屋の奥さん
- 松葉杖をつく未亡人で、喀血した葉蔵のために薬をそろえる。
- 長兄
- 葉蔵の一番上の兄で、父の代わりに葉蔵へ手紙を寄こす。
- 私
- はしがきとあとがきの語り手で、葉蔵の三葉の写真と手記を預かる。
読みどころ
手記は「恥の多い生涯を送って来ました。」の一文で始まる。葉蔵には人間の生活というものが見当つかず、怒った人の顔に獣の本性を見るほど人を恐れている。それでも人を思い切れず、道化を人間への最後の求愛として演じ続ける。人を笑わせながら、内心では必死に機嫌をうかがう。その胸の内が細かく書かれていて、読む人は自分の振る舞いを思い返したくなる。
作品は、三葉の写真を見た私のはしがき、葉蔵の三つの手記、あとがきから成る。外から見た男の顔と、本人が内から書いた告白を比べながら読める。体操の時間に竹一から「ワザ。ワザ」と囁かれる場面では、道化が初めて人に見破られる。堀木と喜劇名詞と悲劇名詞を当て合う夜の会話にも、二人の間柄がよく出ている。
太宰治が亡くなった昭和二十三年に発表された長編である。手記はですます調で書かれ、葉蔵は一貫して自分のことを自分と呼ぶ。はしがきの三葉の写真は、手記の三つの時期に重なる。読み終えてからはしがきに戻ると、写真の見え方が変わる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
ヨシ子と暮らしはじめてしばらくした夏の夜、葉蔵は堀木と屋上で飲んでいた。そのとき、漫画を描かせに来る商人にヨシ子が犯されているのを、階段から目にする。それ以来、葉蔵は人をいっそう疑うようになり、焼酎に溺れる。ヨシ子は葉蔵の顔色ばかりうかがうようになった。年の暮れ、葉蔵は砂糖壺に隠された催眠剤ジアールを見つけて全部飲み、三昼夜眠り続ける。
大雪の夜に初めて喀血した葉蔵は、薬屋の奥さんからモルヒネをもらい、すっかり中毒になる。薬代の借りはふくらみ、故郷の父に手紙で実情を打ち明けても返事は来ない。死のうと決めた日の午後、ヒラメが堀木を連れて現れた。自動車で連れて行かれた先は脳病院で、葉蔵は「人間、失格」と書く。
三か月後、長兄が引き取りに来て、父が亡くなったことを告げる。葉蔵は東北の海辺の温泉地にある古い家で、老女中のテツと暮らす。二十七歳になった葉蔵は「ただ、一さいは過ぎて行きます」と手記を結ぶ。あとがきでは、私が船橋の喫茶店で京橋のマダムに再会し、手記と写真を受け取る。マダムは葉蔵のことを「神様みたいないい子でした」と語る。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日