あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
鶯ばか
- 読了時間
- 約46分
- 文字数
- 22,513字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「オール読物」1958(昭和33)年10月
三行でいうと
- 保本登は去定の供で伊豆さま裏の長屋を訪ね、目笊に千両の鶯がいると言い張る十兵衛を診る。
- 登は同じ長屋の五郎吉一家にも通い、なついてくる七歳の長次から銀杏をもらう約束をする。
- 母を見舞った帰りに長屋へ寄ると、五郎吉の一家は鼠取りの毒をのんで心中をはかっていた。
登場人物
- 保本登
- 養生所の医師で、去定に言われて伊豆さま裏の長屋へ通う。
- 去定
- 養生所の医師で、登を供にして長屋の病人を回診する。
- 十兵衛
- 小間物の行商をしてきた四十一歳の男で、銭湯から帰って以来、目笊の鶯を眺めて暮らす。
- おみき
- 十兵衛の妻で、稼ぎに出なくなった夫を案じている。
- 卯兵衛
- 長屋の差配で、去定と登を案内し、長屋のもめごとに手を焼いている。
- 五郎吉
- 井戸の脇に住む日傭取りで、若いころに頭を打ってから発作に悩まされてきた。
- おふみ
- 五郎吉の女房で、内職で暮らしを支えている。
- 長次
- 五郎吉の二男で七歳。初めて会ったときから登になつく。
- おきぬ
- 向う長屋の端に住む女で、長屋の貧しい家の蔭口をきいてまわる。
- おけい
- 縁日あきんど弥平の女房で、隣に住むおふみとはきょうだい同様につきあってきた。
- まさを
- 天野家の娘で、痛風で寝ている登の母の世話をしに来ている。
読みどころ
同じ長屋に、二つの家がある。十兵衛は空の目笊を見上げて千両の鶯の声を聞き、五郎吉の一家はその日の焚木にも困っている。どちらの家も、抜け出す当てのない貧しさに長く追われてきた。人がそうした暮らしから逃れようとするとき何が起きるのかを、登は医師として目の前で見ることになる。
読むときは、登の診断と去定の態度の違いに注目したい。登は十兵衛の暮らしぶりから病の原因を説明してみせるが、去定は「想像の診断は絶対にいけない」と言うだけで、それ以上の意見を言わない。長屋の人々の口の悪さにも、あわせて目を留めたい。屋根の上から差配とやりあう弥助や、男のような声で女房たちを怒鳴るおけいの言葉は荒い。しかし、その口ぶりの奥には互いを頼りにして暮らす情がのぞく。
『赤ひげ診療譚』は、江戸の養生所の医師である新出去定と、若い保本登を描いた連作である。本作はその一話にあたり、1958年に『オール讀物』に連載された。山本周五郎は名もない庶民の暮らしを書き続けた作家で、この連作でも貧しい人々の姿を、美化も突き放しもせずに描いている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
夜更けに登を呼んだ長次は、島屋の裏の垣根の板を剥がして持ち帰ったことを打ち明ける。自分が泥棒をしたから一家で死ぬことになったと言い、親を勘弁してほしいと頼む。おふみは、島屋におきぬがいて証人になると言い立てたことを明かす。末子のおいちは登が着く前に死んでおり、おみよと虎吉も夕方から夜にかけて死んだ。長次は明けがたに死ぬ。
生き残ったおふみは、親の代から続く貧乏が子供たちにも続くと思い、死ぬことに決めたと語る。おきぬを怨んだのではないと言い、なぜ放っておいてくれなかったのか、助かっても苦労は軽くなるのかと登に問う。登は答えられず、頭を垂れる。そのころ路地では、おけいたち女房がおきぬの家に押しかけて騒ぎになっていた。
半月後、五郎吉夫婦は四人の子の遺骨を持って長屋を去る。おきぬは、追い出すなら心中のことを町方へ訴えると卯兵衛を脅し、そのまま長屋に残った。登が十兵衛を見舞うと、十兵衛は前より肥えていて、今も鴨居の目笊に耳を傾け、「この鶯は千両積んだって売れやしません」と楽しそうに言う。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日