やなぎばしものがたり
柳橋物語
- 読了時間
- 約3時間28分
- 文字数
- 103,939字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
三行でいうと
- 研屋の祖父と暮らすおせんは、上方へ発つ大工の庄吉から、帰るまで待っていてくれと頼まれる。
- 幸太が足しげく通って噂が立つなか、祖父の源六が卒中で倒れ、おせんは足袋の内職で暮らしを立てる。
- 大火の夜に祖父を亡くし、炎の中で拾った赤子を育てていると、上方から庄吉が帰ってくる。
登場人物
- おせん
- 茅町の中通りで、研屋の祖父源六と二人で暮らす十七の娘。
- 源六
- おせんの祖父で研屋。砥石に向かいながら、昔の職人たちの話を語って聞かせる。
- 庄吉
- 杉田屋の大工で、両親もきょうだいもいない。おとなしい性分である。
- 幸太
- 杉田屋の養子に決まった大工。口も手も荒いが、腕はいちにんまえと言われている。
- お蝶
- 大工の頭梁杉田屋巳之吉の妻。幼いおせんをかわいがり、養女に欲しがった。
- 権二郎
- おせんの家の向かいにある飛脚屋山崎屋の若者で、酒癖が悪い。
- おもん
- 天王町の油屋の娘。お針の稽古仲間のなかで、ただ一人おせんに近づいた。
- お常
- 藁屋の勘十の女房。焼け出されたおせんを引き取って世話をする。
読みどころ
物語は、大川端の柳の下で交わした短い約束から始まる。上方へ発つ庄吉に「待っているわ」と答えたことが、おせんのその後を決めていく。待つことは誠実さなのか、それとも思いこみなのか。誰が本当に自分を想っていたのかを、おせんは長い時間をかけて知ることになる。
秋鯵の酢の物や泥鰌汁、土用の桃葉の湯など、季節の食べ物と行事が丁寧に書きこまれている。源六が砥石に向かいながら語る職人の話も、作品の芯になっている。赤穂浪士の討入りの評判が流れ、地震と大火と洪水が続く江戸が舞台だ。口の悪い幸太とおとなしい庄吉が、それぞれどう振る舞うかを見比べながら読みたい。
山本周五郎は、江戸の市井に生きる人びとを多く描いた作家だ。ほかの作品に『さぶ』『赤ひげ診療譚』などがある。この作品も、身寄りの少ない娘が災いと世間の噂のなかで生き方を選ぶ話である。題の柳橋は神田川が大川に注ぐあたりの地名で、物語の大事な場面はこの河岸で起きる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
大火の夜、幸太は源六を背負い、おせんと神田川の落ち口の石置き場へ逃げる。火に囲まれるなかで源六は息を引き取る。幸太はおせんを女房に欲しかったと打ち明ける。おせんは置き去りにされた赤子を拾い、懐に抱く。幸太は石を川へ沈めて足場を作り、おせんを水に入らせる。流れてきた手桶を取ろうと泳ぎ出た幸太は、力尽きて沈んでしまう。
おせんは記憶を失い、勘十とお常の夫婦に引き取られる。おせんのうわ言から、赤子は幸太郎の名で人別に書かれる。地蔵堂の河岸で記憶は戻るが、洪水の夜に夫婦とはぐれ、二人はそのまま帰らない。上方から戻った庄吉は、権二郎の告げ口を信じこんでいた。おせんの子を幸太の子だと思い、捨ててみせろと迫る。おせんは浅草寺に子を置くが、泣き声を聞いて引き返し、抱き上げる。庄吉は何も言わずに去る。
やがて庄吉は山形屋の婿になり、お加代を嫁に迎える。それを知ったおせんは倒れ、正気に戻ると柳河岸で幸太の想いの深さを悟る。看病してくれたおもんを看取ったのち、松造の助けで八百屋の店を開く。幸太の位牌には、自分の名を朱で並べて入れた。柳橋が架かった祝いの日、お蝶から本当のことを聞いた庄吉が詫びに来る。おせんは幸太と夫婦だったと言い、位牌を見せる。庄吉が黙って出ていくと、おせんは位牌に語りかける。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日