ゔぃよんのつま
ヴィヨンの妻
- 読了時間
- 約41分
- 文字数
- 20,276字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 詩人の大谷の妻である「私」は、酒を飲み歩いて帰らない夫を待ち、病弱な坊やと小金井の荒れた家で暮らしている。
- ある深夜、中野で小料理屋を営む夫婦が訪ねて来る。夫が店の金を五千円盗んで逃げたと妻に告げる。
- 翌日、妻は自分でも思いがけない嘘をついて店に居座り、エプロンを借りて客の相手をしながら夫を待つ。
登場人物
- 私
- 語り手で、大谷の妻。父と二人で浅草でおでんの屋台をやっていたとき、店に来た大谷と知り合った。
- 大谷
- 三十歳の詩人で、男爵家の次男。酒を飲み歩いて、何日も家に帰らない。
- 坊や
- 来年四つになる「私」の子。体が小さく、よく熱を出す。
- ご亭主
- 中野の駅近くで小料理屋を営む五十すぎの男。上州の生まれで、大谷に三年間ただで酒を飲まれてきた。
- おかみさん
- ご亭主の妻。四十前後の痩せて小さい女で、夫と一緒に大谷の家まで来る。
- 秋ちゃん
- 新宿のバアで女給をしていた年増女。初めて大谷を小料理屋に連れて来た。
- 矢島さん
- 大谷の古い知合いで、出版の仕事をしている。時たま妻に生活費を届けていた。
読みどころ
夫は家に金を入れず、よその店の金まで盗んで逃げる。それでも妻は、夫を責める言葉をほとんど口にしない。貧しい暮らしの中で妻がどう動き、何を思うのかが、この作品の中心にある。
語り手は妻で、「ございます」を交えた丁寧な口調で語る。第一章の大半は、小料理屋のご亭主が大谷との三年間を語る長い独白だ。その途中で妻は思わず噴き出し、夫の詩にある「文明の果の大笑い」を思い出す。深刻な訴えと笑いが同じ部屋に並ぶこの場面に注目したい。
太宰治が戦後に書いた短編で、1947年に雑誌『展望』に発表された。題のヴィヨンは、夫が雑誌に載せた論文の題に出てくる名前である。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
その夜九時過ぎ、黒い仮面をつけた夫が、京橋のバーのマダムと連れ立って店に現れる。マダムが金を立て替え、盗まれた五千円は返される。これまでのつけは大負けに負けて二万円だと聞き、妻は店で働いて返すと申し出る。翌日から妻は、椿屋の「さっちゃん」として毎日店に通うようになる。
夫も二日に一度ほど飲みに来て、夜は一緒に帰る日もある。夫は死にたくて仕様が無いと語り、神はいるのかと妻に問う。店に通ううちに、妻は客も道行く人も皆うしろ暗い罪を隠していると思い始める。
正月の末の雨の夜、家まで送ってくれた若い工員ふうの客が、終電を逃したと戻って来る。妻は玄関の式台に泊めてやるが、明け方その男に体を奪われる。その朝店に行くと、夫がひとりで新聞を読んでいる。夫は自分を人非人と書いた記事を見せ、五千円を持ち出したのは妻と坊やにいい正月をさせたかったからだと言う。妻は格別うれしくもなく、「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」と答える。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日