にひゃくとおか
二百十日
- 読了時間
- 約59分
- 文字数
- 29,360字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「中央公論」1906(明治39)年10月
三行でいうと
- 豆腐屋の伜の圭さんと友人の碌さんが、阿蘇のふもとの温泉宿に泊まり、のんきな会話を重ねる。
- 圭さんは華族や金持ちへの不満を口にしながら、噴火口を見ようと碌さんを阿蘇へ連れ出す。
- よなが雨に溶けて降る二百十日の嵐のなか、二人は薄の原で道を見失い、煙を目当てにさまよう。
登場人物
- 圭さん
- 豆腐屋の伜で体格がよく、足が強い。華族や金持ちへの不満を繰り返し口にし、阿蘇へ登ろうと碌さんを急き立てる。
- 碌さん
- 圭さんの旅の連れで、自分は身分が好いと言う。饂飩を嫌って御馳走を食べたがり、山道で足に豆を作る。
- 下女
- 阿蘇の宿の下女で、肥後訛りで「ねえ」と返事をする。半熟を頼まれ、玉子を生とゆで玉子に分けて出す。
読みどころ
圭さんと碌さんの会話は、半熟玉子や荒木又右衛門をめぐって脱線ばかりする。その合間に、圭さんは華族や金持ちが人を圧迫する世の中への怒りを語る。圭さんは「なろうと思えば、何にでもなれるさ」と言い切る。笑える掛け合いと、豆腐屋の伜が抱く不公平への憤りが、同じ旅のなかに並んでいる。
話はほとんど二人の台詞だけで進み、地の文は短い。宿の下女は「ビールはござりませんばってん、恵比寿ならござります」と答え、玉子の場面は落し噺のような味がある。山に入ると、噴煙と雨と風の描写が急に厚くなる。圭さんは黒い煙を眺めたあとで「僕の精神はあれだよ」と言う。のんきな会話と荒れる山との対比に注目したい。
『二百十日』は1906年に『中央公論』に発表された。夏目漱石は同じ年に『坊っちゃん』と『草枕』も書いている。金持ちの横暴に憤る人物は、翌年の『野分』でも中心に置かれる。軽い旅の話として読めるが、漱石が社会への不満を正面から書きはじめた作品でもある。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
圭さんは、道を探すために高い草山へ向かう。その途中で、溶けた岩が流れた跡の谷に落ち、生爪を剥がす。碌さんが投げたハンケチで、圭さんは繃帯をする。二百十日の嵐のなかで日が暮れかけ、碌さんは濡れた薄の上に腹這いになって、谷底の圭さんと声を掛け合う。
圭さんは浅い所を見つけて碌さんを呼ぶ。碌さんは兵児帯を解いて蝙蝠傘の柄に結び、谷へ垂らす。豆だらけの足で薄の根に踏ん張って圭さんを引き上げ、そのまま仰向けに倒れる。二人は山を下りるが、たどり着いたのは出発した阿蘇町だった。その晩は、饂飩を食べた店から三軒隣の馬車宿に泊まる。
翌朝は上天気になる。碌さんは豆が痛むので八時の馬車で熊本へ帰ると言うが、圭さんは登らずに帰っては主義に済まないと言い張る。圭さんが華族や金持ちへの怒りをまた語り、いっしょにやれと迫ると、碌さんは「きっとやる」と応じる。二人はともかくも阿蘇へ登ることにする。その頭の上では、二百十一日の阿蘇が轟々と鳴っている。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日