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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

狂女の話

山本周五郎

読了時間
約41分
文字数
20,239字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「オール読物」1958(昭和33)年3月

三行でいうと

  1. 長崎で蘭方を学んで江戸へ戻った保本登は、小石川養生所の医長の新出去定から、いきなり見習を命じられる。
  2. 不服な登は仕着せも着ずに酒を飲み、狂女おゆみに付添う女中のお杉と、夜の腰掛で会うようになる。
  3. 風邪で声を嗄らしたお杉が珍しく酒を持って現れ、約束していたおゆみの身の上を語りはじめる。

登場人物

保本登
長崎で三年あまり蘭方を学んだ若い医者で、御目見医になるつもりでいたが養生所の見習にされる。
新出去定
小石川養生所の医長で、赤髯と呼ばれる。
津川玄三
登と入れ替わりに養生所を出ていく見習医。
森半太夫
養生所の見習医で、去定に心酔している。
お杉
牢造りの家でおゆみの世話をする女中。
おゆみ
富豪の娘らしく、店の者を殺したため養生所の中の家に住まわされている。
ちぐさ
天野家の娘で、登が長崎にいる三年を待たなかった。

読みどころ

腕に自信のある若い医者が、貧しい人のための施療所に押しこめられる。保本登は自分の学問を出世の元手と考えていて、養生所の暮らしをことごとく嫌う。去定に逆らい、禁じられた酒を飲み、患者の手当にも手を貸さない。その傲りがどこで崩れるかが、この話の中心にある。

去定の言葉は短く乱暴で、登の言い分を「用はそれだけだ」と遮ってしまう。一方で、おゆみの狂気の原因については、去定とお杉の見方が食い違う。夜の腰掛で交わされる会話と、沈丁花や桜の匂いが漂う場面を追うと、読み終えたあとで細部の意味が変わって見える。登が頭から離せずにいるちぐさのことも、ときどき顔を出す。

山本周五郎の『赤ひげ診療譚』は、養生所に来た保本登と新出去定を描く連作で、この話はその第一話にあたる。1958年に『オール讀物』で連載が始まり、のちに黒澤明が映画『赤ひげ』にした。最初の一話から、登と去定の関係が動きはじめる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

語られたのは、おゆみが九つのころから何人もの男に悪戯をされ、「殺してしまう」と威されてきたことだった。生母も男と家を出て、箱根で殺されていた。話すうちに声はしゃがれなくなり、登は相手がお杉ではなくおゆみだと気づく。だが薬の入った酒で体は痺れ、声も出ない。おゆみは釵を登の耳のうしろに当て、店の者を殺したときのことをそのまま再現しはじめる。

登は体に衝撃を感じて気を失う。目を覚ますと去定がいて、酒には発作をしずめる薬が入っていたこと、お杉も同じ酒で眠らされていたことを告げる。おゆみはお杉から登の話を聞き、機会をうかがっていた。去定の帰りがもう少し遅ければ、登は死んでいた。

去定の腕には、おゆみに五カ所噛まれた傷があった。このことは誰も知らないと言い、去定は「懲りることは懲りろ」と言う。登は涙をこぼし、去定は登の口のまわりを拭いて出ていく。その足音を聞きながら、登は心の中で「赤髯か、わるくはないな」とつぶやく。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日