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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

おくめ殺し

山本周五郎

読了時間
約47分
文字数
23,441字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「オール読物」1958(昭和33)年11月

三行でいうと

  1. 養生所の医者の新出去定と保本登は、帰り道に溝で倒れている血まみれの若者、角三を見つける。
  2. 角三は家主の高田屋松次郎を殺そうとして失敗していた。松次郎は長屋を取り壊すため、住人を追い出している。
  3. 長屋は十九年も店賃なしで貸されてきた。その理由を知る多助は「おくめ殺し」の一言しか覚えていない。

登場人物

新出去定
小石川養生所の医者で、溝に倒れていた角三を手当てし、角三を捜しに来た高田屋の手下を言い負かす。
保本登
去定の供をする養生所の医員で、角三の手当てに通い、長屋の者たちから証人を頼まれる。
角三
音羽の藪下の長屋に住む二十五歳の元板前で、長屋の角の家にめし屋を開いたばかりだった。
おたね
多助の孫娘で十九歳になり、来月の中旬に角三と祝言をあげる約束をしている。
多助
夜鷹そば屋をしていた老人で、卒中のあと足腰が不自由になり、頭もぼけてしまった。
高田屋松次郎
長屋の家主で、五月に父の与七が死んで跡を継ぎ、長屋をあけろと言いだした二十三歳の若者。
長次
同じ長屋に住む魚屋で、仲間と松次郎を崖下の空地へ案内する。
伊蔵
高田屋に出入りする男で、主人を襲った下手人として角三を捜しに来る。

読みどころ

古い約束はいつまで守られるべきなのか。この話はそこから始まる。先代が自分から言いだしたとはいえ、長屋の者は十九年も店賃を払わずに住んできた。話を聞いた登も、どちらが正しいのか分からなくなる。心の中では「引越したらいいじゃないか」と角三に問いかけている。去定は、約束の理由が分からない限り長屋の者に勝ちめはないと考える。題の「おくめ殺し」が何を指すのかは、最後近くまで伏せられている。

冒頭では、去定が役人の無道さを激しく非難しながら夜道を歩く。「おれは生きている限り喚きたててやる」と言い切る去定に、登は内心で首を振る。こうした二人の温度の差が全編に通っている。後半は長屋の男たちが話を動かす。与平と小助が軽口を挟み、長次が段取りを仕切る。そのかけ合いの裏で何が仕組まれているのかを、登と同じ立場で追うことになる。猪之とお杉の夫婦約束のように、養生所の人々の話も合間に挟まれる。

『赤ひげ診療譚』は、養生所の医者の去定と登が患者や町の人々に関わっていく連作である。黒澤明の映画『赤ひげ』の原作としても知られる。この話では病気の治療よりも、貧しい人々の暮らしを去定がどう守ろうとするかが描かれている。津川玄三が戻ってくる話のように、ほかの話の人物の消息も出てくる。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

多助は、死んだ角三の父の加吉から聞いた話を思い出す。仏壇の位牌のうしろから、高田屋との約束を書いて総代五人が拇印を押した書き物が出てくる。角三たちは証拠を見せると言って松次郎を呼び出し、登を証人に立てる。長次が松次郎を崖下の空地へ案内すると、松次郎は枯草に隠れた古い空井戸へ落ちる。昔、おくめという女の子が落ちて死んだ井戸だった。

長次は井戸の底へ向かって書き物を読み上げる。十九年まえ、四歳の松次郎はこの井戸に落ち、四日めに長屋の者に見つけられて助かった。親の与七はその恩に報いようと、松次郎の代まで長屋の店賃を只にする約束をした。息子にはこの出来事を知らせたくないので、内緒にしてほしいとも頼んでいた。長次たちは石の蓋で井戸の口を塞ぎ、伊蔵には旦那はもう帰ったと告げる。

五日めになって、角三は登に「事がうまくおさまった」と話す。松次郎は前の晩に井戸から揚げられ、書き物に自分から名前を書いて爪印を捺していた。長屋の者はこれまでどおり住めることになり、角三たちはこれから店賃を払うつもりだと言う。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日