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きいろのとまと

黄いろのトマト

宮沢賢治

読了時間
約16分
文字数
7,847字
読みやすさ
やさしい
表記
新字新仮名
読む速さ

三行でいうと

  1. 町の博物館にある剥製の蜂雀が、朝早く来た「私」に、ペムペルとネリの兄妹の話を語りはじめる。
  2. 兄妹は果樹園で二人きりで楽しく暮らしていた。畑のトマトには、一本だけまばゆく光る黄いろの実がなった。
  3. ある夕方、遠くの野原からいい音が聞こえてくる。二人は手をつなぎ、音のする方へ走っていく。

登場人物

私
小さいころ、学校へ行く前に町の博物館に寄り、蜂雀から話を聞いた語り手。
蜂雀
博物館のガラスの戸棚にいる剥製で、ペムペルとネリの話を「私」に語る。
ペムペル
果樹園のガラスの家で、妹のネリと二人だけで暮らす男の子。
ネリ
ペムペルの妹で、兄といっしょに畑仕事をしたり唱歌をうたったりする。
番人のおじいさん
開館前の博物館に「私」をそっと入れてくれた番人。

読みどころ

兄妹は光るトマトを黄金だと信じ、さわりもせずに眺めていた。二人だけの世界で大切にされたものが、外の世界でどう扱われるか。この話の中心にあるのはその問いだ。蜂雀は「ペムペルという子はほんとうにいい子だったのにかあいそうなことをした。」とくり返すが、何が起きたのかはなかなか言わない。読者も「私」と同じ気持ちで続きを待つことになる。

話は二重になっている。外側に博物館の「私」がいて、その内側で蜂雀が兄妹の話を語る。赤いガラスの水車場、黄色のガラスの納屋、青いキャベジと、兄妹の暮らしは色あざやかに描かれる。遠くの音に花のにおいがついて届く場面は、とくに美しい。原稿の一部が失われていて、話の初めの方は欠けたまま残っている。

宮沢賢治の童話のなかでも、本作は子どもが受けた悲しみをまっすぐ描いた一編だ。蜂雀は語り終えるときに「ああいうかなしいことを、お前はきっと知らないよ。」と言う。最後の一文で、話は「私」の小さかったころの思い出に戻っていく。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

途中で黙りこんだ蜂雀の前で「私」が泣いていると、番人のおじいさんが来て蜂雀を叱る。おじいさんが立ち去ると、蜂雀はあやまって続きを語りだす。いい音を追った兄妹の前を、赤シャツの馬乗りたちと、白いきれをさげた象の一行が通っていった。後をついて行くと、町の手前の草地に楽隊の鳴る大きな天幕があった。

人々は入口で番人に銀か黄金のかけらを渡して入っていく。ペムペルはネリを待たせて果樹園へかけ戻り、黄いろのトマトを四つとって引き返した。木戸口でトマトを二つ差し出すと、番人は顔を歪めてどなり、トマトを投げつけた。一つがネリの耳にあたって泣き出し、まわりの人々はどっと笑った。

ペムペルはネリを抱いて逃げ、暗い丘の間まで来ると自分も高く泣き出した。二人はだまって来た道を戻り、家に帰った。話し終えた蜂雀は、また嘴を閉じて動かなくなる。「私」は礼を言って廊下へ出たが、明るさと兄妹のかわいそうさとで涙がこぼれた。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日