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しごのこい

死後の恋

夢野久作

読了時間
約37分
文字数
18,175字
読みやすさ
ふつう
表記
新字新仮名
読む速さ

初出: 「新青年」1928(昭和3)年10月

三行でいうと

  1. 浦塩の町で評判の風来坊の男が日本の軍人をレストランに誘い、自分の話を聞いてほしいと頼む。
  2. 男はワーシカ・コルニコフと名乗る。白軍の兵卒だった頃に、少年兵リヤトニコフから宝石を見せられた話を始める。
  3. 宝石が欲しくなった男は斥候に加わる。だが森の手前で機関銃に撃たれ、一人だけ草原に取り残される。

登場人物

ワーシカ・コルニコフ
語り手で、モスコー育ちの貴族の一人息子。二十四歳だが、一夜で白髪の交じった老人のような姿になった。
リヤトニコフ
同じ分隊に入った十七、八歳の少年兵士。両親の形見と打ち明けた宝石を隠し持っていた。

読みどころ

語り手の話は本当にあったことなのか、それとも戦争で心を病んだ男の妄想なのか。読み手は聞き手の日本の軍人と同じ席に座らされ、その判断を迫られる。男は「私の運命を決定て下さい」と頼み、話を信じてくれた人には全財産を譲ると言う。読み手は、何を信じればよいのか分からないまま最後まで引っぱられていく。

全編が一人の男の語りだけでできている。笑い声や言いよどみ、酒を勧める言葉がはさまり、相手の反応を受けながら話が進む。宝石を見せられた場面では、男はリヤトニコフの身分をあれこれ推し量る。一方で、宝石が欲しくなった自分の浅ましさも隠さずに打ち明ける。草原に浮かぶ丸い森は、名画のように美しく描かれる。そこから一転する恐怖の落差にも注目したい。

夢野久作は『ドグラ・マグラ』で知られる作家である。この作品の舞台は大正七年の浦塩で、ロマノフ王家の最期をめぐる噂が話の背景にある。歴史の出来事と怪奇な語りが重なり、短い中に作家の持ち味が詰まった一編だ。

結末まで知りたい人へ

結末を表示する(ネタバレを含みます)

撃たれたコルニコフが草の中に伏せているあいだに、仲間たちは森へ逃げ込む。直後に森の中で激しい銃声が起こり、一分も経たずに静まる。日が暮れてから宝石のことを思い出した彼は、森の奥へ這い込む。ガソリンマッチの火で照らすと、周りの木々に仲間たちの裸の死骸が縛りつけられていた。どの死骸もむごく傷つけられていた。

リヤトニコフだけは銃弾の跡がなく、首を紐で縛られて銃剣に吊るされていた。リヤトニコフは女性で、処女の乳房をしていた。乱暴された跡が残り、宝石は猟銃で下腹部に撃ち込まれていた。草原で聞いた二発の銃声はその音だったと彼は考える。彼は臓腑から宝石を探り取る。線路伝いに日本軍の前哨へたどり着くまでの一夜で、老人のような姿になった。

彼女は自分を恋していた。死んでからも宝石を与えるために、自分を森へ招き寄せた。これが「死後の恋」だと彼は語る。浦塩の人々は宝石を贋物だと笑い、話を信じなかった。彼は軍人に宝石を捧げようとするが、軍人は受け取らず、話が本当らしくないと告げる。立ち去る相手を引き止めようとしながら、彼は最後にアナスタシヤ内親王殿下の名を口にする。

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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日