とむらいきかんしゃ
とむらい機関車
- 読了時間
- 約39分
- 文字数
- 19,351字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「ぷろふいる」ぷろふいる社、1934(昭和9)年9月号
三行でいうと
- 汽車で乗り合わせた大学生に、H駅の機関庫に勤めていた男が「葬式機関車」の話を語りはじめる。
- 轢殺事故のたびに花環を吊るす機関車が、ある冬から毎週同じカーブで盗まれた豚を轢くようになる。
- 帝大出の片山助役は張り込みで拾った干菓子を手がかりに、機関庫の裏手の葬具屋へたどり着く。
登場人物
- 長田泉三
- D50・444号の機関手で、仲間には「オサ泉」と呼ばれている。轢いた人の供養に、花環を操縦室の天井へ吊るしはじめた。
- 杉本福太郎
- 長田と組む機関助手である。車輪に轢死者の肉片を見つけると、鼻の下の煤を拭き取る癖がある。
- 片山
- 帝大出の機関庫助役で、豚の轢殺事件の調査を任されてB町へ出張する。
- 吉岡
- 片山助役の部下で、夜明け前のカーブでの張り込みに連れ出される。
- 安藤巡査
- B町の派出所の巡査で、豚が盗まれた日付を助役に伝える。
- トヨ
- 葬具屋十方舎の一人娘である。家から出ず、奥の間の障子の隙間から顔だけ出して表を眺めて暮らしている。
- 十方舎の主人
- H市の裏町で葬具屋を営み、娘のトヨをオドオドするほど可愛がっている。
読みどころ
機関車が轢く豚は、毎週同じ曜日の同じ時刻に、同じカーブに縛りつけられている。誰が何のために豚を盗み、わざわざ汽車に轢かせるのか。この奇妙な謎を、帝大出の助役が順を追ってほどいていく。謎が解けると、その奥にあった動機の哀しさが見えてくる。
全編が汽車の中での語りで、元機関庫勤めの男が「学生さん」に話しかける口調で進む。轢死体の後始末や機関車の各部が細かく描かれ、鉄道の現場の生々しさがある。片山助役が盗まれた日付から曜日を割り出し、町で七日ごとに起きることを洗い出す場面は推理の見どころだ。障子の隙間から顔だけ出す葬具屋の娘の描写にも注目したい。語り手がなぜ毎年同じ日に同じ汽車に乗るのかも、気にかけながら読むとよい。
大阪圭吉は、戦前に本格探偵小説を書いた作家である。この作品は『ぷろふいる』昭和九年九月号に載った。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
三月十八日の夜明け前、片山助役たちはカーブで張り込むが、豚盗人は現れない。H駅へ戻ると、杉本が駅の先の陸橋の下で人を轢いたと告げる。轢かれたのは十方舎の娘トヨだった。ちぎれた両脚は象皮病で丸太のように腫れており、懐からは「オサ泉」に宛てた遺書が見つかる。
遺書によると、トヨは足の傷がもとで象皮病になり、母は気が狂って三年前の秋に陸橋の下で汽車に轢かれた。そのときの機関手が長田で、花環を買いに来る彼をトヨは好きになった。ひと月ほど前から、父はB町へ花を買いに行くたびに神様へ願をかけてくれ、日曜日ごとに長田に会えるようになった。しかし父がバチが当ると言って願かけをやめたため、トヨは父と口論になり、手にしていた錐で誤って父を殺してしまう。トヨは長田の機関車に轢かれて母のもとへ行くと書き残していた。十方舎では、主人が錐を突き立てられて棺桶の中で死んでいた。
最後に語り手は、自分こそ長田泉三だと明かす。この出来事のために鉄道を辞め、毎年トヨの命日の三月十八日にH市の共同墓地へ墓参りに行くのだと話す。H駅が近づき、彼は学生に別れを告げる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日