まんじ
卍
- 読了時間
- 約4時間27分
- 文字数
- 133,243字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
三行でいうと
- 弁護士の妻の柿内園子が、ある作家に向けて自分の身に起きた事件を大阪の言葉で語り出す。
- 技芸学校で同性愛の噂を立てられた園子は、噂の相手の徳光光子と本当に親しくなっていく。
- 光子には綿貫栄次郎という男がいると分かり、園子は二人の嘘と計略に巻き込まれていく。
登場人物
- 柿内園子
- 弁護士の妻で、この話の語り手。技芸学校で日本画を習い、光子に似せて観音の絵を描く。
- 徳光光子
- 船場の羅紗問屋の娘で、園子より一つ年下。学校では洋画を習っている。
- 柿内孝太郎
- 園子の夫。大学を出たあと、大阪の今橋に事務所を借りて弁護士を開業した。
- 綿貫栄次郎
- 光子と結婚の約束をしたと名乗る色白の男。園子に誓約書を書かせて血判を押させる。
- お梅
- 光子に付いている小間使。光子と男との逢い引きのあいだ、外で待たされている。
読みどころ
この小説は、柿内園子が「先生」と呼ぶ作家に向かって語る、長いひとり語りである。園子は光子に惹かれ、何度も欺されたと気づきながら離れられない。光子が誰をどこまで本気で愛していたのかは、語り手の園子にも最後まで分からない。その分からなさが、読む者を最後のページまで引っぱっていく。
文章のほとんどは大阪の言葉で書かれ、「先生、わたし今日はすっかり聞いてもらうつもりで伺いましたのんですけど」と始まる。ところどころに「作者註」が入り、作者が園子の様子や手紙の封筒の柄を書き添える。二人の手紙や、片仮名交じりの証文の文体で書かれた誓約書もそのまま引かれる。語りの声が次々に入れ替わるところに注目して読みたい。
谷崎潤一郎は関東大震災のあと関西に移り住み、上方の言葉や暮らしを作品に取り入れていった。この作品は1928年から1930年にかけて雑誌『改造』に連載された。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
園子は光子と相談して、浜寺にある徳光家の別荘で睡眠薬を飲み、心中を装う。夫を呼び寄せて、二人の仲を認めさせるためだった。ところが園子が眠っているあいだに、夫と光子が関係を持つ。夫は光子に夢中になり、綿貫は金を受け取って手を引いた。
それから光子は毎晩、園子と夫に睡眠薬を飲ませ、二人が寝入るまで見張るようになる。夫婦は衰弱し、互いを疑いながら光子だけを頼りに生きていく。やがて小新聞に誓約書の写真が載り、記事は浜寺の件まで暴きそうになる。暇を出されたお梅が綿貫と組み、手紙を盗んだらしかった。
光子の言い出しで、三人は寝室の壁に観音の絵を飾って線香を上げる。夫は、死んだらこの観音を「光子観音」と名づけて拝んでほしいと言う。三人は枕を並べて薬を飲むが、翌日目を覚ましたのは園子だけだった。最後まで二人に欺されていたのではないか。園子はその疑いを抱えたまま、今も光子が恋しいと泣きながら語り終える。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日