つちがみときつね
土神ときつね
- 読了時間
- 約19分
- 文字数
- 9,332字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 一本木の野原の北に立つ樺の木には、谷地に住む乱暴な土神と、上品な狐の二人の友達がいた。
- 狐は星や詩集の話で樺の木を喜ばせる。だが望遠鏡を注文したと嘘をつき、ひそかに悔やむ。
- 狐の名を聞くたびに土神は嫉妬で荒れる。神の自分が狐に劣るのかと考え、胸をかきむしってもだえる。
登場人物
- 樺の木
- 野原の北の小高い所に立つ女の樺の木で、二人の友達のうち、どちらかと言えば狐の方が好きだった。
- 土神
- 五百歩ほど離れた谷地に住む神で、見かけは乱暴だが正直であり、樺の木を思って狐に嫉妬する。
- 狐
- 野原の南から来る茶いろの狐で、上品だが少し不正直であり、樺の木に望遠鏡の嘘をつく。
- 木樵
- 三つ森山へ稼ぎに行く途中で土神に谷地へ引き込まれ、同じ所を回ったあげく水の中に倒れる。
読みどころ
一本の樺の木をめぐって、神と狐がそれぞれ心を乱す話だ。土神は乱暴だが正直で、狐は上品だが少し不正直である。語り手は冒頭で二人をそうくらべてみせ、どちらが良いとも決めない。神であることを支えにしてきた土神が、狐の話を聞くうちに自分の方が劣ると感じてしまう。その苦しさが物語の中心にある。
読むときは、土神の心の中の言葉に注目したい。土神は、神の分際で狐を気にかける自分を情けなく思う。それでも気にかかるから仕方ないと考え直す。迷う言葉が地の文にそのまま流れ込むので、気持ちが揺れる様子を順に追える。狐の方も、嘘をついたあとで自分をだめなやつだと責めている。星の夜や朝日、霧の晩など、場面ごとの景色の書き分けも読みどころだ。
宮沢賢治の生前には発表されず、亡くなった後に知られた作品である。木や狐が口をきく童話の形をとっているが、描かれるのは嫉妬と自尊心という大人の感情だ。同じ作家のほかの童話と読みくらべると、明るさの度合いの違いがよく分かる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
秋のある日、土神はすっかり上機嫌で樺の木を訪ねる。夏からのつらい思いが消え、樺の木が狐と話したいなら話せばいいと伝えるつもりだった。土神は「わしはいまなら誰のためにでも命をやる。」と言う。樺の木は重苦しくて返事ができない。そこへ狐が来る。狐は約束の本を樺の木に渡し、望遠鏡はいつか晴れた晩に見せると言って、土神に挨拶もせず帰っていく。
狐の赤革の靴が光るのを見て、土神は我に返る。肩をいからせて歩く狐の姿に、急に怒りがわいた。土神は真っ黒になって後を追い、狐は風のように逃げる。狐は「もうおしまいだ、もうおしまいだ、望遠鏡、望遠鏡、望遠鏡」と考えながら走った。丘の下の穴へ飛び込もうとしたところで土神に捕まり、からだをねじられて死ぬ。土神は狐を地面に投げつけ、何度も踏みつける。
土神は狐の穴に飛び込むが、中はがらんとしていた。赤土が固められているだけだった。外へ出てレーンコートのかくしを探ると、茶いろのかもがやの穂が二本入っていた。土神は途方もない声で泣き出し、その涙が雨のように狐に降る。狐は首をぐんにゃりと垂れ、うすら笑ったような顔で死んでいた。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日