かぜのまたさぶろう
風の又三郎
- 読了時間
- 約1時間1分
- 文字数
- 30,007字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
三行でいうと
- 九月一日の朝、谷川の岸にある小さな学校の教室に、見たこともない赤い髪の子がひとりですわっていた。
- その子は北海道から来た高田三郎だった。嘉助は風の又三郎だと言い張り、子どもらは三郎と野原や川へ遊びに出る。
- 野原では霧の中で逃げた馬を追って迷い、川では鬼っこの最中に夕立が来る。三郎が本当に又三郎なのかは決まらない。
登場人物
- 高田三郎
- 北海道の学校から来た転校生で、赤い髪をしている。父は上の野原の入り口でモリブデンを掘る仕事のために来た。
- 一郎
- ただ一人の六年生で、さわぐ子をしかってみんなをまとめる。
- 嘉助
- 五年生で、三郎を最初に風の又三郎と呼び、最後までそう言い張る。
- 耕助
- 葡萄藪を見つけた子で、三郎に木のしずくを浴びせられて怒る。
- 佐太郎
- 四年生で、妹のかよの鉛筆を取り上げる。山椒の粉で川の魚をとろうとする。
- 一郎のにいさん
- 上の野原で草を刈っていて、霧の中で迷った嘉助と三郎を探しに来る。
- 先生
- 谷川の学校でただ一人の先生で、三郎をみんなに紹介する。
読みどころ
二百十日のころ、山あいの学校に転校生が来る。そして同じころから風がよく吹く。転校生はただの子どもなのか、それとも風の神の子なのか。物語はこの問いに答えを出さないまま進んでいく。読む人は子どもらと一緒に、三郎のふるまいを一つずつ見て迷うことになる。
注目したいのは、三郎が何かをするたびに風が吹く書き方である。最初の朝、教室の三郎がにやっと笑うと風が窓を鳴らし、嘉助は「ああわかった。あいつは風の又三郎だぞ。」と叫ぶ。葡萄とりの場面で耕助に水を浴びせた三郎は「風が吹いたんだい。」と言ってとぼける。霧の野原で嘉助が見る夢の場面では、現実と幻の境がいっそうあいまいになる。子どもらの台詞は岩手の言葉で書かれているので、声に出すつもりでゆっくり読むと場面の空気がつかみやすい。
宮沢賢治の童話のなかでも、村の子どもらの日々を細かく描いた作品である。宮沢賢治の死後に発表された。学校の朝礼や授業、野原での草刈り、川での水遊びのように、出来事の多くは当時の農村の暮らしそのものだ。そうした日常のなかに、風の気配だけが不思議なものとして入りこんでくる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
川で夕立にあった後、一郎は三郎から教わった歌を夢の中で聞く。目をさますと、外ではほんとうにひどい風が吹いていた。一郎は空を見上げ、北をめがけて吹いていく風を思って胸を高鳴らせる。急いでごはんをすませ、母に早く出る訳をきかれると、又三郎は飛んで行ったかもしれないと答える。そして嘉助をさそい、雨と風にぬれながら学校へ急ぐ。
教室にはまだだれも来ていなかった。二人が吹き込んだ雨水を掃いていると先生が出てくる。先生によると、高田さんはきのう父親と一緒にほかの土地へ移った。会社から電報で呼ばれ、ここのモリブデンの鉱脈には当分手をつけないことになったという。嘉助は「そうだないな。やっぱりあいづは風の又三郎だったな。」と叫ぶ。
先生が宿直室へ行ってしまうと、二人は黙って立ったまま顔を見合わせる。相手がほんとうはどう思っているかを探るような目だった。風はまだやまず、雨に曇った窓ガラスがまたがたがたと鳴っている。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日