ごじゅうのとう
五重塔
- 読了時間
- 約1時間53分
- 文字数
- 56,120字
- 読みやすさ
- 歯ごたえあり
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月
三行でいうと
- 谷中感応寺に五重塔が建つと聞き、腕はあるが世渡りの下手な大工の十兵衛が、自分に建てさせてほしいと願い出る。
- 十兵衛は恩のある棟梁の源太と仕事を争う形になる。朗円上人は二人で相談して決めよと言い渡す。
- 源太は二人で塔を建てようと持ちかけるが、十兵衛はこれを断る。二人の家の者や弟子まで巻き込んで、波風が立っていく。
登場人物
- 十兵衛
- 腕は確かだが口下手で気が利かず、仲間から「のっそり」とあだ名される大工である。
- 源太
- 川越の源太と呼ばれる棟梁で、感応寺の本堂などを建て、十兵衛の世話もしてきた。
- お吉
- 源太の女房で、夫の仕事を横から狙う十兵衛を憎んでいる。
- お浪
- 十兵衛の女房で、貧しい暮らしの中で夫の行く末を案じている。
- 猪之
- 十兵衛とお浪の幼い息子で、板の切れ端を積んで五重塔をまねて作る。
- 朗円上人
- 感応寺を大寺にした老僧で、世の人々から深く敬われている。
- 清吉
- 源太の弟子で、親方を慕うあまり十兵衛を憎む気の早い若者である。
- 鋭次
- め組の頭で、火の玉の親分と呼ばれる短気で頼もしい男である。
- 円道
- 感応寺の役僧で、用人の為右衛門とともに寺の普請を取り仕切る。
読みどころ
腕はあっても世に出られない職人が、一生に一度の仕事を前にして、何を譲り何を譲らないのか。この物語の中心にはその問いがある。十兵衛は恩のある源太に頭を下げながらも、自分の仕事に他人の手が入ることだけは受け入れない。源太のほうも、度量の広い男でありたい気持ちと、自分の腕を残したい欲とのあいだで揺れる。どちらも筋の通った二人の意地がぶつかり合うところに、この作品の読みごたえがある。
文章は一文がとても長く、地の文と台詞が切れ目なく続く。最初は読みにくいが、声に出すような調子で追うと、江戸の職人言葉の勢いが伝わってくる。上人が二人に聞かせる長者と兄弟のたとえ話は、その後の二人の振る舞いを読むときの手がかりになる。お吉とお浪という二人の女房が、それぞれの夫をどう案じるかにも目を向けたい。後半の嵐の場面は文体ががらりと変わり、物語の山場を大きく盛り上げる。
幸田露伴は明治の作家で、尾崎紅葉と並んで「紅露」と称された。この作品は露伴の代表作の一つで、明治二十年代に新聞に連載された。文語の混じる古い文章だが、職人の誇りというわかりやすい題材が全体を一本に貫いている。古典の文章に慣れたい人の、手ごたえのある一冊になる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
十兵衛は「どうも十兵衛それは厭でござりまする」と源太の申し出を断る。源太が自分を副にしてもよいと折れても、一つの仕事を二人ですることはできないと言い張る。源太は怒って帰るが、考え直して上人にどちらに任せてもよいと申し出る。十兵衛もすでに辞退を伝えていた。上人は工事を十兵衛に任せる。源太は十兵衛を料理屋に招いて仲直りし、自分の積り書や絵図を譲ろうとする。十兵衛がそれを断ったため、源太は再び腹を立てる。十兵衛は「のっそりでも恥辱は知っております」と言い返す。
この夜の話を聞いたお吉は、清吉にきつく当たる。清吉は普請場に駆け込み、十兵衛に釿で斬りかかって左の耳を落とし、肩も傷つける。鋭次が清吉を取り押さえ、源太は清吉を出入り禁止にする。お吉は内緒で鋭次に路用の金を預け、清吉を上方へ逃がす。十兵衛は傷を負った翌朝も休まずに普請場へ出る。職人たちはそれを見て励むようになり、肩の傷が治るころには塔もほぼできあがる。
落成式を前に、江戸を大暴風雨が襲う。塔は大きく揺れ、円道と為右衛門は十兵衛を呼びにやる。十兵衛は塔は倒れないと言って動かない。だが上人の呼び出しだと聞かされると、上人にまで疑われたと嘆く。十兵衛は鑿を手に第五層に上り、塔が壊れたら飛び降りる覚悟で嵐をにらむ。その間、塔の周りを雨の中で歩き続ける男が一人いた。塔は釘一本ゆるまずに残り、十兵衛の名は江戸に広まる。落成式の日、上人は十兵衛と源太を伴って塔に上り、「江都の住人十兵衛これを造り川越源太郎これを成す」と書き記す。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日