かしわばやしのよる
かしわばやしの夜
- 読了時間
- 約16分
- 文字数
- 7,601字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
三行でいうと
- 日暮れに稗の畑で土をかけていた清作は、柏の林から変な声を聞き、そっとそちらへ走っていく。
- 赤いトルコ帽の背の高い画かきに呼び止められ、清作は柏の木大王の待つ林の奥へ連れていかれる。
- 月がのぼると柏の木たちが順に自分の歌をうたい、賞を競う。やがて歌は清作をからかう方へ向かう。
登場人物
- 清作
- 日暮れまで稗の畑で働いていた男で、柏の木を切ったことから大王に前科者と呼ばれる。
- 画かき
- 赤いトルコ帽をかぶった背の高い画かきで、柏の木大王の客として林に来て歌の審査をする。
- 柏の木大王
- 十九本の手と一本の太い脚をもつ柏の木で、林の柏たちを従えている。
- ふくろうの大将
- 金モールをつけた年寄りのふくろうで、柏の木たちに大乱舞会を持ちかける。
- ふくろうの副官
- 赤と白の綬をかけたふくろうで、木と鳥がいっしょに踊る歌の音頭をとる。
読みどころ
人と木と鳥が、月夜の林で同じ宴に加わる話である。柏の木たちは歌い、踊り、すねて、人をからかう。清作のほうも負けずにどなり返す。林の木を切ってきた男と、切られる側の木たちが、同じ夜に歌の競い合いをする。その取り合わせのおかしさが、この作品のいちばんの魅力である。
注目したいのは、口に出すと楽しい言葉の数々だ。冒頭の「欝金しゃっぽのカンカラカンのカアン。」から始まり、柏の木の歌やふくろうのはやし言葉が次々に出てくる。月の光が青や緑や白に変わり、林の色もそのたびに移っていく。清作と大王が何度も繰り返す「買ういわれがない」のやりとりも、場面の合間に笑いを差しはさむ。
宮沢賢治が生前に出した童話集『注文の多い料理店』に収められた一編である。岩手の野と林を舞台に、草木や動物が人と対等に口をきく賢治らしい世界が描かれている。短く、声に出して読むと楽しい作品で、子どもと一緒に読むのにも向いている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
清作をからかう歌が三つ続いたあと、柏の木たちは静まり返り、だれも出てこなくなる。画かきがいいメタルを出すと言うと林がざわめき、奥からたくさんのふくろうが現れて柏の木にとまる。ふくろうの大将は大王に、連合で大乱舞会を開こうと持ちかける。
大将の歌を大王は下等だと言うが、副官が上等の歌をうたい、柏の木とふくろうはそろって踊る。大王も喜んで雨と風の歌をうたいだす。そこへ霧が落ちてきて月を隠し、柏の木たちは踊りの形のまま化石したように立ちつくす。
画かきは赤いしゃっぽだけを残して消えている。清作が林を出ると、柏の木たちは残念そうに横目で見送る。空ではお月さまのあたりがぼんやり明るく、遠い沼森のあたりから「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」と叫ぶ画かきの声がかすかに聞こえる。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日