やまおとこのしがつ
山男の四月
- 読了時間
- 約12分
- 文字数
- 5,595字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
三行でいうと
- 山男はにしね山の林で兎をねらううちに山鳥をつかまえ、日なたのかれ芝に寝ころんで空をながめる。
- 体が軽くなってふらふら歩き出し、木樵に化けて町へ入ると、魚屋のゆで章魚の脚に見とれてしまう。
- 声をかけてきた薬売りの陳にながいきの薬をすすめられ、のむと小さな六神丸の箱に変えられてしまう。
登場人物
- 山男
- 金いろの眼と赤い髪をもち、にしね山で獲物をとる。町へ入るときは木樵に化ける。
- 陳
- 大きな荷物をしょって歩く中国人の行商人で、反物と六神丸を売り、ながいきの薬をすすめる。
読みどころ
人を化かして町へ入るはずの山男が、反対に薬で小さな箱に変えられてしまう。こわい出来事のはずだが、山男はどこかのんきで、敵のはずの陳にまで同情する。化かす側と化かされる側が入れ替わるおかしさが、この話の中心にある。
山男が心のなかで考えることは、丸括弧でそのまま書かれている。「飴というものはうまいものだ。」とぼんやり考えたかと思うと、ゆで章魚の脚の曲がり具合に本気で感心する。行李のなかで、となりの箱と章魚の話で意気投合する場面も楽しい。お日さまを「お日さまは赤と黄金でぶちぶちのやまなしのよう」とたとえるような、春の野原の描き方にも注目したい。
宮沢賢治が生前に出した童話集『注文の多い料理店』に収められた一編である。作中には七つ森のような岩手の地名が出てくる。山男は『祭の晩』にも登場するので、あわせて読むと賢治の描く山男の人柄がよく分かる。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
山男は六神丸の箱にされ、行李に入れられる。外の陳をどろぼうとどなり、町であやしいやつだと言いふらすとおどす。陳がしわがれた声で、商売にならないと嘆く。山男は気の毒になって、町では声を出さないと約束する。行李のなかで、となりの箱が話しかけてくる。上海から来たというその声は、陳に薬にされた者がほかにもたくさんいて、みな泣いていると教える。山男はまだ骨まで六神丸になっていないので、黒い丸薬をのめばもとに戻れる。戻ったら、ほかの六神丸を水につけてよくもんでほしいと頼まれ、山男は引き受ける。
陳がおかっぱの子供に薬をすすめはじめたとき、山男は丸薬をそっとのみ、もとの体に戻る。陳はびっくりして水薬をこぼし、丸薬だけをのんでしまう。陳の頭は倍に延びて背も高くなり、山男につかみかかる。山男は必死に逃げるが、足が空回りして背中をつかまれる。
叫んで目を開けると、すべて夢だった。山男はしばらく山鳥の羽をながめ、六神丸の箱を水につけてもむことなどを考える。それから大きなあくびをして「ええ、畜生、夢のなかのこった。陳も六神丸もどうにでもなれ。」と言い、もうひとつあくびをする。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日