つきよのでんしんばしら
月夜のでんしんばしら
- 読了時間
- 約9分
- 文字数
- 4,254字
- 読みやすさ
- やさしい
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
三行でいうと
- ある晩、恭一は鉄道線路の横を歩いて停車場の近くまで来る。空には九日の月とうろこ雲がかかっている。
- シグナルが下がったとたん、でんしんばしらの列が軍歌を歌いながら片脚で北へ歩き出す。
- ぼろぼろの外套を着たじいさんが号令をかけながら現れ、恭一に握手を求めて電気総長だと名乗る。
登場人物
- 恭一
- ある晩、ぞうりをはいて鉄道線路の横を歩き、でんしんばしらの行軍を見てしまう。
- じいさん
- せいが低く顔の黄いろな老人で、ぼろぼろの鼠いろの外套を着ており、自分を電気総長だと名乗る。
- でんしんばしら
- 瀬戸もののエボレットを飾り、亜鉛のしゃっぽをかぶって軍歌を歌いながら行進する。
読みどころ
線路わきに立っているだけの電柱が、もし兵隊だったら。この童話はそんな空想を、月夜の一場面として描いている。でんしんばしらは碍子をエボレットに、針金を槍に見立てた姿で、片脚でひょいひょいと行進していく。見慣れた景色が、ある晩だけ別のものに変わる。その驚きがこの作品の魅力である。
読むときは、繰り返される「ドッテテドッテテ、ドッテテド」の軍歌に耳を澄ませたい。声に出すと行進の足取りが伝わってくる。威勢のいい列のなかに、疲れて足を引きずる二本の柱がまじる場面も印象に残る。うしろの柱が「おい、はやくあるけ。はりがねがたるむじゃないか。」とどなる場面には、電線でつながった柱ならではのおかしさがある。電気総長のじいさんは自慢話が多い。「わしとも少し強く握手すればまあ黒焦げだね。」と言っておどかしたりもする。こわさと滑稽さが入りまじる人物である。
宮沢賢治は、鉄道や電気のような当時の新しい技術を好んで童話に取り入れた。この作品もその一つで、うろこ雲や停車場のあかりを描く冒頭の景色からして賢治らしい。生前に刊行された唯一の童話集『注文の多い料理店』に収められている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
じいさんは恭一に、電報で長靴を送れと頼まれた父親が電線に長靴をぶらさげた話などを得意げに語る。でんしんばしらは一段と声を張りあげて軍歌を歌う。そのとき線路の遠くに汽車の赤い火が二つ見え、じいさんはあわてて「全軍、かたまれい、おいっ。」と号令をかける。でんしんばしらはぴたりと止まり、軍歌はただのうなりに戻る。
やってきた汽車は、客車の窓がみんな真っ暗だった。じいさんは電燈が消えているのを見て怒り、背中を丸めて走る列車の下へもぐり込む。恭一が止めようとしたとき窓がぱっと明るくなり、小さな子が「あかるくなった、わあい。」と叫んで通り過ぎる。
でんしんばしらは静かにうなり、シグナルはがたりと上がる。月はまたうろこ雲の中に入り、汽車はもう停車場に着いたようだった。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日