ちいさこべ
ちいさこべ
- 読了時間
- 約1時間7分
- 文字数
- 33,288字
- 読みやすさ
- ふつう
- 表記
- 新字新仮名
初出: 「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
三行でいうと
- 神田の大工の店「大留」の若棟梁茂次は、川越の普請先で、江戸の大火で両親が死んだと知らされる。
- 江戸へ戻った茂次は、焼け跡の仮小屋で、おりつが火事で親を失った子供たちを大勢世話しているのを見る。
- 茂次は親類や同業の助けを断り、自分の腕で店を立て直そうとするが、請け負った普請場が火事で焼ける。
登場人物
- 茂次
- 大工の店「大留」の若棟梁で二十三歳。口がへたでぶっきらぼうに話す。
- おりつ
- 十八歳の娘。火事で母を亡くし、大留の仮小屋で食事や洗濯を引き受ける。
- おゆう
- 焼け残った質両替商「福田屋」の娘で十七歳。茂次の幼な馴染。
- 大六
- 大留の職人で三十一歳。茂次の後見のような立場にいる。
- 久兵衛
- 福田屋のあるじ。五人組を勤め、町内で人望がある。
- 菊二
- 子供たちの中でいちばん年嵩の男の子。いつもおりつのそばにいる。
- 重吉
- 子供たちの一人で九歳。八百屋の店先で蜜柑を取って捉まる。
読みどころ
大火で両親も家も失った若い大工が、誰の助けも借りずに店を立て直そうとする。茂次は「つきあいは対等でやりたいんだ」と言い、親類の申し出も葬式も断ってしまう。周りからは頑固な意地にしか見えない。その意地の奥に何があるのかが、この作品の中心にある。
茂次とおりつのやりとりに注目したい。二人とも気が強く、口論になると言葉がとがる。それでも、相手の言いかけてやめたひと言を、茂次はずっと覚えている。焼け出された子供たちが大人の顔色をうかがう場面も、短い描写で胸に残る。題名の由来になる古い話は、作中でおりつが語って聞かせる。
山本周五郎は、江戸の職人や長屋の人々を描いた作品を多く残した作家である。この作品も、大工の言葉づかいと仕事の段取りがいきいきと書かれている。魚万の再普請を前に茂次が言う「べらぼうめ、このくらいのこって音をあげてたまるか」の一言に、職人の誇りが出ている。
結末まで知りたい人へ
結末を表示する(ネタバレを含みます)
茂次ははじめ子供たちを追いだせと言う。しかし同心と久兵衛が孤児の始末をつけに来たとき、おりつの訴えを聞いて、子供たちを置くと決める。おゆうも昼間だけ手伝いにかようと申し出る。その騒ぎで五人の子が逃げ、のちに二人が戻ってくる。そのうちに魚万の普請場がもらい火で焼ける。茂次は手付を返してあやまる道を退けて再普請を引き受け、店の看板を福田屋へ質に入れて五百両を借りる。
火事で死んだ職人二人の法事をした夜、茂次はおりつに責められる。親方とおかみさんの仏壇を閉めたままなのはひどいと言うのである。茂次はつい平手で打ってしまうが、すぐに詫びる。そして店を立て直すまでは、両親を仏あつかいにせず見ていてもらいたいのだと打ち明ける。正月には重吉が蜜柑を盗んで捉まる。茂次は「ぬすっと」と呼ぶ大人たちに言い返し、子供は渡さないと言いきる。
ある夜、菊二がおりつの部屋の障子をそっとあけ、「おっ母さん」と囁いて去る。おりつは菊二を疑っていた自分を恥じ、泣きながら茂次の部屋へ行って暇をもらうと言う。茂次はそれを引きとめて、おりつにこの家をやっていってほしいと求める。おりつは、借金の利息としておゆうが嫁に来るという噂を口にする。茂次はそれを打ち消し、寝ころんで、もう寝ろと言う。おりつは仮の仏壇に手を合わせ、お願いしますと囁いて部屋を出ていく。
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公開: 2026年10月27日 更新: 2026年10月28日